約束──6 ページ6
「ッ!」
山姥切の目から、涙がこぼれ落ちた。
彼の中の殺意は、すっかり消えたようだった。
……少なくとも、私達に向けていたものは。
良かった、と呟き頬を緩める。
が、少し顰めっ面をして付け加える。
「…だが、少し無防備ではないのか?知らぬ者に身内のことを喋るなど」
「たしかにそうだ。だが、何故かあんたには話してしまいたくなる。……その霊力のせいかもな」
霊力?
Aは、「こんのすけも言っていたが、私の霊力は、そんなに強いものなのか?」と不思議に思ったが、それ程気にすることもなく言った。
「……私がきたからには、もう何も心配することはない。だから、お前は笑っていれば良いのだ。山姥切、笑っていた方が、其方には似合う。」
Aはそう言って、彼の涙を指でそっと拭った。
「……そうだな。」
彼は、少しぎこちなくなりながらも花が咲いたように優しく笑った。
暫くそうしていたあと、不意に彼が言った。
「……知っていると思うが、ここにいる奴らはあんたが来ることを嫌がっている。そのまま大広間に行けば、確実に殺されるだろう。先に俺が行って説得するから、あんたはその後に……。」
「駄目だ。」
Aは山姥切がその案を言い終わる前に止めた。
「えっ」と、こんのすけも飛び跳ねた。
彼もそれが得策だと思ったのだろう。
山姥切も驚いたように聞く。
「……何故だ？殺されたいのか！？」
「否、そうではない。其方はその兄弟を除いて他の男士達と上手くいっていないのであろう？ならば、彼らの説得は難しいだろう」
「っ、なんでそれを……っ」
山姥切は言葉を詰まらせた。
「普通なら、非道な審神者の次に来たやつを一人で偵察なんてさせないだろう？それに、其方の霊力は、悲哀のような深い藍色が混じっているからな」
彼をいなすように、Aは優しく微笑む。
「大丈夫だ。こう見えても私はただでやられるほど弱くはない。伊達に長生きしてないからな。君は待っていてくれ」
その言葉には、重みがあった。
失敗するはずがない、という根拠のない確信を、彼らに与えていた。
その案を受け入れるしか、彼らに選択肢はないのである。
「……分かった。死ぬなよ。絶対に。約束してくれ」
「ああ。『約束』だ。私は絶対に死なない」
そうして彼女は、さっと身を翻し、大広間へと向かった。
残された山姥切とこんのすけは、まだ幼く見える彼女の背中を、ただ静かに見守っていた。
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作者名：茜月 | 作成日時：2022年4月8日 16時
