約束──29 ページ29
「っ、これで全員、か……」
「この数を、一日で……」
薬研は、心底驚いた様子でAをみつめる。
てっきりもっとかかると思っていた。
いやむしろ、3日で終わればいい方だと思っていたくらいだ。
「っほんとうに、ありがとうございます……っ!」
一期は今一度、深く深く頭を下げた。
Aはそんな彼をちらりとみやると、気にするな、と言って粟田口部屋を後にしようとする。
「どこへ行くのですか？」
「……いや、少し外の空気を吸おうと思ってな」
「……それなら、そこの池で休んできたらどうだ？」
あそこなら誰も来ないはずだ、
と薬研は庭に生い茂る木々に隠れるようにしてひっそりと佇む池を指さした。
日も落ちかけて暗い中だということもあり、
確かに、探そうと思わなければ見つかることはまずないであろう質朴さだ。
「…ありがとう」
そう一言言ってAは茂みの奥へと消えていった。
「……さて、俺っちは厠にでも行ってくるとするか」
彼女を見送ったあと、薬研もぽつりと呟いて粟田口部屋を後にした。
再顕現された乱や手入れを施された者たちは
皆久しぶりに元気に動き回ったためか、
疲れ果てて規則正しい寝息を立てている。
「…………。」
辺りには先程と対比するように、沈黙だけが渦巻いている。
そこに立っているのはただ、一期一振だけ。
一振りの刀は、一体何を思うのだろうか。
先程感じるはずだった彼女のやさしい手のぬくもりを、自らの行動により無碍にしてしまったこと？
心にしみる、さり気ない弟の気遣いのこと？
かつては頭を撫でてくれた、あの人を殺させてしまったこと？
それは、彼にしかわからない。
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作者名：茜月 | 作成日時：2022年4月8日 16時
