約束──24 ページ24
「……」
乱藤四郎の『夢』へと入ったAは、彼への余りにも酷い仕打ちに唇を噛みしめる。
このままではいけない。
絶対に彼を救わねば。
そう決意したのはいいが、何処へ向かえばいいのか彼女には検討もつかなかった。
──ここは乱藤四郎の僅かな生命が宿る場所……『夢』だ。
始まりがあるのかも、終りがあるのかもわからないただ真っ白く広がる空間は、なんの行き先も示してはくれなかった。
……しかし。
「……？気の所為か?」
微かに音が聞こえたような気がして、Aは目を閉じ感覚を研ぎ澄まさせた。
「薬研にぃ〜こっちだよ!!ほら、いちにぃも早く〜」
「!!」
気の所為などではない。今度は確かに聞こえた。
その方向へ、さらに歩みを進めていく。
段々と声が大きくなってくる。
そして、Aは歩みを止めた。
「……乱藤四郎というのは、貴殿か」
「……？そうだけど…、あなたは……だぁれ？」
乱は心底無邪気そうな顔できょとんと首かしげた。
「私はA。貴方を救いに来た」
「救う…？ボクはなんにも救われたいことなんてないよ」
だってボク、いますっごく幸せだもん!!
「ッ…!!」
そう言って笑う乱に、Aは思わず口をつぐんでしまうが、彼の本当の願いを叶えるべく再び口を開くのだった。
「…乱。此処はそなたの夢だ。薬研や一期一振たちが、『本当の世界』でお主のことを想って…」
「あんた、見慣れない顔だな」
「！！」
いつのまにか、そこに誰かいた。
「こら、口が悪いよ薬研。……すみません。うちの弟が」
現実世界とは裏腹なふわり、と大人びた表情で微笑む彼。
相対して薬研は子供っぽいような、大人っぽいような不思議な雰囲気をまとっている。
(一期一振たちが、何故……)
Aはさっと思案をめぐらせたが、彼らが霊力なしに此処に入ってくるとも思えず、二人も乱の夢の一部なのではないか、と推測した。
「あっいちにぃ、薬研にぃ!多分そうだよ!…でも、ボクを救う…？って言ってたよ？」
「!!」
「っ、それは本当ですか!?」
先程とは打って変わり焦ったような様子を見せる一期一振。
本丸にいる一期達とてあったばかりだが、此処の彼らはかなり表情豊かだ。
もっとも、二振りをよく知る乱が創り出したのだから、それが本来の姿だったのかもしれないが。
「…本当だ。乱、そなたを手入れさせてほしい」
「お手入れならあるじさんにしてもらったよ?」
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作者名：茜月 | 作成日時：2022年4月8日 16時
