約束──3 ページ3
プルルルル…
事務の電話が鳴る。
俺はパソコンを打つ手を止め、受話器を取った。
「…はい。本丸総括本部です。」
「すまない、審神者を希望するAという者だが」
鈴を転がしたような声色が耳朶を打うつ。
俺は、受話器を持っている手と反対の手で審神者候補のリストをパラパラとめくっていく。
「ええと…Aさんですね…あ、ありました。審神者をご検討中とのことですが、了承して頂けるのでしょうか?」
「…ああ、間違いない。」
きっぱりとそう言う声色からはなんだか活力のようなものがまっすぐこちらにも伝わってきて、思わず緩んでいた気持ちを引き締め直す。
「ありがとうございます。Aさんのサポートをさせていただく碧野翔(あおの しょう)と言います。よろしくお願いします」
「ああ。よろしく頼む」
声しか聞こえることはないがAさんが微笑んだ気配がしたため安心して話を続ける。
「ではAさんを推薦したこんのすけを送らせますので、少々お待ちください。あ、本丸まで行くので荷物のご用意を」
「了解した。ありがとう」
ところで…と彼女(審神者候補リストによると女性らしい)が不思議そうに言う。
「…こんのすけとは、誰のことだ？」
「？一度会ったことがあると思いますが…なんというかその…デフォルメっぽい管狐のことです」
ああ、あの子のことか、と納得した様子の彼女。その返答を確認したあと、では失礼します、と電話を切った。
────「ここが、例の本丸か…」
「ええ、そうです。かなりひどい状態ですが…」
Aたちは今、配属された本丸の前へと足を運んでいた。
入口の門は錆びれ、その禍々しさからはどこか儚さも感じられる。
強い怨念の籠もったピリついた空気が体に纏わり付き、何とも不愉快だ。
さらに血の香りがぶわっと辺り一帯に広がり、そこらじゅうが芳醇な……と、いけないいけない。
「……大丈夫ですか？」
私の異変に気づいた様子のこんのすけは、心配そうに声をかける。
……そうだ。私はもう、覚悟を決めたのだ。
本人がしっかりしないでどうする。
そう自分を叱咤し、言葉を返す。
「あぁ。問題無い。自分の言動には責任を持つ。…たとえ、どんなことがあろうとも」
「ありがとうございます!わたくしも全力で支えますので！！」
こんのすけはこれまた愛らしい笑みを浮かべる。
それを終止符に行こう、と一言言うと、私達はその本丸に足を踏み入れた。
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作者名：茜月 | 作成日時：2022年4月8日 16時
