約束──13 ページ13
「山姥切長義だ。どうして偽物くんの名前がわかって、本歌の俺の名前がわからないのかな」
長義は皮肉を含んだ言い方でそう言うが、Aは気にも留めないようで、相変わらずすました顔で答えた。
「すまない。名前を覚えるのは苦手でな」
「ああいや、うん…というか、なんで偽物くんのこと知って……。」
彼はハッとしたようにAをみた。
「あぁ、さっきそこで遭った」
と、彼女は庭の方を指さした。
それを聞いて、彼はなんとも言えない顔をする。
「まーた審神者のお気に入りかい？偽物くんは……」
「？？…どういうことだ」
「……前任のときも相当気に入られてたんだよ、偽物くんは。手入れも、食事も許可されていたし。……彼だけ、ね」
「…そうか」
どうやらこれが仲間割れの原因らしい。
今見てもボロボロで血だらけの男子達。
しかし思い返してみれば、彼だけは傷ひとつなかった。
ボロボロの布を被っていたから、気づきにくかったのだろう。
「…まぁ、今はそんなことどうでもいい。同じ山姥切だと不便だろう。長義と呼んでくれ」
山姥切国広への対抗心からそう言った長義だったが、確かに不便ではある。
「たしかにそうだな。では、一応皆も名乗ってくれ」
「では、俺から名乗ろう。三日月宗近。こちらも手入れが必要なのは事実故、妙な事をしなければ危害を加えるつもりはない…が、お前を信用したわけではない。図に乗るなよ」
「ほう……私をここに置く、と……?いい選択だ。即刻追い返されるとでもと思ったが。褒めてやろう」
Aはその後「……ああ、」と思いついたような声を上げる。
「誉めてやろう、といったほうが良いか?」
三日月はその言葉に少しむっとしたのか、柄にもなくわかりやすい挑発をするように言った。
「ぬかせ、小娘。じじいを舐めるなよ？」
「そなたが年上とは言い切れんぞ。付喪神も人も妖も見かけによらず。私は本当に小娘なのだろうな……？」
……そう、彼女は人ではない──詳細はゆくゆく語ろう──のだが勿論、それを知る刀剣男士はいない。
……唯一人、圧し切り長谷部を除いて。
長谷部はなんとも言えない顔で二人を見ていた。
いや、正確に言えば一匹と一振り、というべきだろう。
ともかく、彼女の秘密を知っている自分にとっては理解できる話も、三日月達には全くもって理解不能なのだ。
変な誤解を招かなければよいのだが。彼は、また不安げな顔で彼らを見つめた。
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作者名：茜月 | 作成日時：2022年4月8日 16時
