5 ページ5
「俺が怖い？」
男は静かに聞きました。
「怖くない」
悪魔は答えました。そして、こう続けます。
「でも、人間は俺を怖がるよ」
男は目を伏せてしまった悪魔の悲しそうな顔を見ていました。
「俺は、お前の事は怖くないよ」
森のお城に住む悪魔のことは幼い頃から大人たちに聞かされていたので、知っていました。
目を合わせた人間は魂を吸われてしまうとか、大きな口で食べられてしまうとか、長い指で悪い魔法をかけられてしまうとか。悪魔は生きている人間の魂や命、肉を食らっているから恐ろしく美しいのだと大人たちは言いました。
男は、いま目の前にいる悪魔が、そんな風におぞましいことをする生き物だとは思えませんでした。
やっぱり確かに恐ろしいほど美しい。けれどその悲しそうな目が魂を吸うとは思えなかったし、言葉を紡ぐのを躊躇う寂しそうな口が人間を食べてしまうとは思えなかったし、微かに震えている指が悪い魔法をかけるとも思えませんでした。
「俺が知ってるお前は、生き物を助けるやさしい奴だよ。だから怖くない」
そもそも、生きている人間を食らう事で美しさを保っているのだとしたら怪我をして動けずにいた自分なんて格好の餌食だったはず。
それなのに悪魔は自分を食べなかった。それどころか手当てをし、命を助けてくれた。やっぱり、やさしいんじゃないか。
男は最初に交わした会話を思い出していました。きっと、悪魔は、ありがとうと言われることもなく生きてきた。もしかしたらずっと誰かとまともに話をすることもなかったのかもしれない。そう思いました。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 92人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
7oh(プロフ) - タルトコさん» タルトコさん、コメントありがとうございます！幸せな気持ちになってもらえてよかった…！こういうのどうなんだろうとか、個人的には好きな世界観だけどこれまでのを読んでくれている人には刺さるのかどうかとかちょっと悩んだりしましたｗこちらこそありがとうですよ！ (2020年7月13日 1時) (
レス) id: 886f4a5b1d (このIDを非表示/違反報告)
タルトコ(プロフ) - こんばんは。恐れられる程の美貌でありながら無垢な心を持つ悪魔の可愛らしさ！悪魔だけれど天使のようなその笑顔に男は心が温かくなり、その温かい眼差しで悪魔は幸せを感じて…と素敵な無限ループを想像しつつ眠れる私もまた幸せです。ありがとうございました。 (2020年7月12日 2時) (レス) id: 276045d76c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：7oh
| 作成日時：2020年7月11日 19時
