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#07 ページ9

安室さんの家のソファに座って、手当てを受ける。

器用に包帯を巻くその動きは、慣れている人の手付きだ。

今日は色々な事に気付いてしまう。


白い布を巻かれている手を、ぼーっと見つめていると

できましたよ、と柔らかい声が聞こえて我に返った。



「ありがとうございます。」


「いえいえ。」



安室さんは微笑んでから、救急箱を置きに立つ。

その背中を見て、聞くつもりの無かった事を口にしていた。



「今日はスーツなんですね。初めて見たかも」


「ああ、まあ。それより、もっと大きな怪我じゃなくて良かった。」


「ね、猫に噛まれただけなんで……。」



濁された、というより交わされた?

はは、と乾いた笑みを浮かべながら考える。

どっちにしろ、理由は教えてくれないみたい。

私の隣に座った安室さんを、ちらりと見て

なんなら、あれこれ聞いてやろうかと思ったが

相手から線を引かれているのに、それを飛び越えようなんて思えなかった。



「いやぁ、最近の猫は狂暴ですね。」


「あはは、一体いつまで嘘つくんですか。」


「え。」


「猫に噛まれたなんて嘘でしょう?」



笑ってくれたから、もう信じてくれたもんだと思ってた。

が、そんなに簡単じゃなかったらしい。


もー、ほんとですよぉ。

と誰がどう聞いても嘘にしか聞こえない様な言葉で誤魔化すけど

もう無理だ。

でも流石に、女子高生にナイフを向けられて、安室さんを差し出そうと思ったけど無理でした!

なんて、とてもじゃないが言えない。

どうしよう、と逃げ道を探す。



「そう言えば!さっき私の事"A"って呼んでくれましたね!嬉しかったから、これからもそう呼んで欲しいなぁなんて。」


「君が僕の事、下の名前で呼んでくれるならいくらでも呼びますよ。」


「いずれ呼びますね。」


「今からです。」



おーっと?この流れは予想してなかったぞー?

逃げた先が逆に試練だったわ。

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作者名:透空 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2020年10月10日 13時

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