#05 ページ7
「あむぴと別れてよっっ!!」
「うぎゃー!!」
知らない女子高生の手にあるナイフが、夕焼けを反射してきらりと光る。
誰も通らない路地裏に響く、私の発狂。
事が起こること、数分前。
"すみません、気付かなくて…。"
"明日にはポアロに行けます。"
大学の帰り道。
およそ二週間後に返ってきた、メッセージの返信。
それを見て、安室さんの顔を思い浮かべにんまりしながらも
積もりに積もった疑問を頭の中で整理する。
なんだか聞いてはいけない気もするな、と思っていると
後ろから声を掛けられた。
「すみません。」
「はい?」
「これ、落としましたよ。」
「わぁ!ありがとうございます!」
声を掛けて来た人が持っていたのは、指輪が通っているネックレス。
考え事をしていて落としたのに気付かなかったのだろう。
受け取ってから顔を上げると
あら、大変。
糸目のイケメンが居るではないか。
今の時期にハイネックという所が印象的だ。
見惚れていると
男性はそれじゃあ、と言って踵を返す。
しまった。名前ぐらい聞いときゃ良かった。
その後ろ姿に後悔して、私も自宅へと歩き出す。
黄昏時の綺麗な夕日を見つめて
安室さんになんて返そうかな、と考えていると
建物の間から手が伸びてきて、服の襟を掴まれる。
「ぐえっ」
女性らしからぬ声を上げた時には、もう路地裏に引き込まれて……
冒頭に至る。
うっそ、ほんとに梓さんと話してた通りになっちゃったよ。
「い、一旦ナイフ下ろそ?ね?」
「あんたがあむぴと別れるならね。」
「それはできないけれども。」
「なんでだよ!」
「ぴえっ。」
怖い怖い怖い。
まず女子高生の行動力が怖いよ。
説得してる間にも、女子はじりじり近付いてくる。
やばいぞ。
「この事誰にも言わないからさぁ、未遂にしとこ?流石にナイフで刺されたら私、死んじゃうし。」
「その為にやってるのよ!」
「まじか!じゃあ貴方が後悔しちゃうから未遂で終わらすを希望します!」
「無理っ!」
その声を合図に突進してくる、見知らぬJK。
馬鹿な私は避けるだなんて出来なくて、ナイフを握って動きを止めた。
「いッ。」
「ば、馬鹿じゃないの!?」
強く握った右手が赤く染まって、女の子は怖じ気づく。
馬鹿って……。まあそうだけど。
深く傷が入った手を庇いながら、女の子に何か言おうと口を開くと
「何をやってるんだ!」
ずっと聞きたかった声が聞こえた。
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