晩餐会 ページ1
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幾度も夢を見た。浅ましく真っ赤に染まった人肉を貪る己の姿を。ぐちゃり。ぐちゃり。生々しい不快音を下品にたてながら食う姿を。
汚い。気持ち悪い。
一般的な感想も勿論生まれる。しかし第一に出てくる感情は卑しくも、羨ましいという奇妙な欲なのだ。それは同族を食す己の姿よりも余程気持ちが悪く感じられた。その欲こそが一番汚物と評されるものなのだ。
つまり、簡潔に言ってしまえばその夢自体が気持ち悪いのではなく、その夢を見てしまう自分が一番気持ち悪いということである。
欲が夢に出るとはよく言われることだろう。もしそれが事実なのであれば、俺は人として許されざる欲望を持っているという結論に至るはずだ。
いや、というかもうとっくに辿り着いている。
とっくの昔に。何年も前に。もしかしたら生まれた時からかもしれない。
いつ自分が自覚したのかも知り得ないが、俺は確実に理解している。己が
“患っている”という表現が正しいとは一概には言えないが、一般的なものでない限り病気と同じように捉えても間違いではないと思う。
まともじゃない、普通じゃないものは常識や社会から外れた異物となる。また、それらを含む者は患者として見られる。おかしい話ではない。“普通”の話だ。
レールから外れた者は異常者。これが当たり前なのだ。
「 いただきます 」
囲む食卓。一般の食卓。“普通”の食事。
肉、魚、米、野菜 ・・・至って普通の食べ物がテーブルに並んでいる。
箸で肉を掴み、口への運ぶ。ゆっくりと味を噛み締めるように咀嚼する。
肉の味。“普通“の肉の味。旨味。
「 ・・・母さん、もう俺勉強して来るよ 」
「 芥、まだほとんど食べてないじゃない 」
「 いいんだよ母さん。お腹空いてないから 」
笑顔を貼り付け嘘を吐く。
母さんはきっと一生気付かない。母さんだけじゃない。父さんもだ。
きっと死ぬまで気付かないだろう。
俺がいつでも腹を空かせていることに。俺がいつでも飢えていることに。
いつもいつもいつも空腹なことに。
母さん、ありがとう。いつもありがとう。
満たされない食事をありがとう。
「 ご馳走様 」
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作者名:釈馬 | 作成日時:2020年4月4日 14時