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わかるも何も…
「当たり前です。S会3年生、初期メンバーの1人、渡辺翔太先輩ですよね？」
当たり前とか言っておきながら、最近まで知りませんでしたけどね！
今までに知った情報を口にすると、目の前の彼の表情が少し明るくなる。
知られていることが嬉しいのだろうか？
「じゃあ！昔のこと」
「岩本先輩や友だちのラウールくんに聞いたので分かります。」
僕と彼の言葉がぶつかる。
同じタイミングで話してしまったらしい。
「は…？」
分かりやすく不機嫌になる彼。
情緒不安定かよ！
てか、それよりも
「あの。それ僕のなんで…」
彼の目の前に行き、手に持つブレスレッドを指さす。
「いや、これ俺のだから。」
ムスッとした表情は変えずにブレスレッドをポケットに入れようとした渡辺先輩。
「ちょっと！！」
「おいっ」
そんな彼の腕を掴み、ブレスレッドを奪う。
「あれ…？」
奪ったブレスレットが無事か確認するが、今朝見たものと少し違う気が…
「だから、それは俺のって言ってんだろ？」
僕が考え込んでいるうちに、ブレスレットはまた彼の手に戻っていた。
「お前のはこれ。探してたんだろ…」
奪われたブレスレットを自分の左腕に器用に付けたあと、ズボンのポケットから同じようなブレスレッドを取りだし僕の左腕に着けてきた彼。
「屋上に行く階段に落ちてたらしい。」
「え…？」
僕の左腕に付けられたブレスレットを見ると、今朝見たものと何ら変わりない状態だった。
それにしても…
「なんで同じもの…」
「それ、大事なものなんじゃねぇの？ったく、無くすなよな…」
僕の言葉に言葉をかぶせてきた彼。
ガシャガシャと乱暴に自分の後頭部をかくと、ギロっと睨んできた。
でも、その瞳の奥は少し悲しそうに見える。
昼休みを終えるチャイムがなる。
もうそんな時間か…
「渡辺先輩。わざわざありがとうございました。では…」
なぜだか胸がザワザワと騒ぐ。
気持ちの整理はついていないが、一応お礼は言わないといけないと思い深々とお辞儀をして屋上を後にする。
「なんだよ、"渡辺先輩"って…。…Aっっ…。」
屋上には壁に拳を打ち付ける音が虚しく響いた。
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作者名：塩おにぎり | 作成日時：2023年4月16日 16時
