これはただのトリップ物語ではない。【イナGO】

trip05 ページ5

「はい、コレ。落としたよ」


そう言って差し出されたのは、私のスマホ。


ハッとなり、私はジャージのポケットを手探った。


そうだポケットに入れたままだっけ。


先程は死にもの狂いで走ったものだから、こんな大切な物を落としたことに気がつかなかった。


どうでもいいけど、未だにスマホでメールを打つのに慣れていない。


・


「ど、どうも…です」


わあ私アニメキャラに落し物拾ってもらったよ！……自慢できるかこの野郎。


カタカタと右手を震わしながら、スマホに手を伸ばし、無事(？)受け取った。


ここまで怯えるものだから、松風天馬は困ったような顔をした。


私はアンタより困ってるよ…。


「ありがとう…ございます」


目を合わせないよう視線をそらしておじぎをする。


何て私は失礼な人だろう。でも今は見逃してほしいです。


・


「じゃあ俺練習に戻るから」


おう早くどっか行け。 心の中でそう返答した。


爽やかに微笑むと、彼はクルリと私に背を向け走って行った。


足早いなー。


……どうでもいいことにいちいち興味を持つのはやめよう。


・


なんとなくスマホに目をやると、ピンと私は閃いた。


「電話！」


そう叫んで、慣れない手つきで通話のアプリを開く。


繋がるかどうかはやってみなければ分からない。


しかしためしてみる価値は非常にある。


もし繋がれば、なんとかなるかもしれない。


せめて母さんに安否確認だけはとりたい。


「頼む…！」


小さく祈りながら、指で画面をタッチした。


・


・


・


・


『ただいま回線が込み合っております――』


・


・


「…うん」


登録してあるアドレスを片っ端から掛けたのだが、反応は「回線が〜」だけ。


そればっかりだから暗記しちゃったよ。この先何にも役に立たないけど！


そうだよねー。まず次元が違うもんねー。


肩を落とし、開き直ったようにうすく笑う。


頬に熱い水が伝ってきた。久々にマジ泣きしてしまった。


理由は、三次元に帰る方法が分からないから。ばかばかしい。


点と立体の違いだから。そもそも住む世界が違うから、電話繋がるわけないじゃんかよー。


期待していた分、ショックは大きかった。


・


・


本気で、これからどうすればいいのか、考えなければならないようだ…。


・


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