名前を呼んで ページ8
＊＊
ただ泣き潰れて、
小さな温もりに癒されて、一夜が明けた。
「ここが君の部屋だ」
そう言って案内された空き部屋。
中は藻抜けの殻状態で、ここに置く荷物など何もない。
空っぽ。
私の心と同じだ。
「午後、警察と一緒にもう１度君の住んでた家へ行ってもらう。」
「えっ…」
「私物や最低限の生活品を持ち帰るだけだよ。」
「……」
そう、だけど…
あの人達と暮らしてきた家なんて、もう見たくもない。
今すぐにでも忘れたい。
「古川令との思い出が、」
「…！」
「その家にはあるんだろ？」
「……」
降谷さんは、優しい眼差しをしていた。
……令くん。
「まぁ、ベッドなんかは家具屋で新品を購入しるが…
それまで君の寝る場所がないから、僕のベッドを使っても構わない。」
「あ…大丈夫です。」
「当然だが、僕は別室のソファーで寝るぞ。」
「…？」
ベッドを使うのが悪いと思ったから遠慮しただけなんだけどな…
それに、
「…ずっと敷き布団だったから、ベッドだと落ち着かないんです」
「…そうか。なら、ソファーで寝てくれ。」
「はい。」
「それから風呂だが＿＿＿＿＿＿」
何だか未だに信じられない。
昨日まで、犯罪者と１つ屋根の下で暮らしていたのに。
まさに地獄から這い上がったて来た訳だ…
「＿＿＿＿＿＿＿で…って、聞いてるか？」
「あっ…はい」
「お湯張りはどのボタンと言った？」
「えっと…」
「聞いてないじゃないか。」
「すみません…」
この、ちょっと厳しい人が…
私を掬い上げてくれたんだ。
「仕事上帰れない日も続くから、頼むぞ」
「わかりました…」
この人が守ってくれた命を、
簡単に棄てるわけにはいかない。
そしていつか、恩返しをする。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿ 生きる希望ができた。
「後、何か聞きたい点はあるか？」
「……」
ワガママなんて言っちゃいけない、わかってる。
だからせめて…
「名前…」
「え？」
「名前を…呼んでください。」
「あぁ…」
両親が私にくれた、最初で最後の贈り物。
優しく呼んでくれる人は、
皆この世からいなくなってしまった。
「…A、」
「っ…」
「何度でも呼ぶよ」
胸がキュッと締め付けられた。
ちゃんと思ったのは、初めてかもしれない。
生きていて、良かった。
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juno108(プロフ) - とっても面白いです!続きがすごく気になります！ (2020年5月20日 13時) (
レス) id: 73960369a7 (このIDを非表示/違反報告)
さち - おもしろかったです。続きが早く読みたいです。よろしくお願いします。 (2019年2月11日 21時) (レス) id: 70b86fd223 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぴこ | 作成日時：2019年1月13日 2時
