✣✣ ページ10
ひゅ、ひゅ、と呼吸が荒くなる。涙を我慢しようと深呼吸をしたが、余計に呼吸がおかしくなった。
男がトントンと優しく背中を撫でたけど、火傷のせいで痛いだけだった。
――――――――――――
きんときはすっかり青くなってしまったAを見て、あの日のことを思い出した。
偶然だったのだ。
火事になったのはきんときのせいではなかったし、かと言って彼女のせいでもない。
夜道にたまたま煙草をポイ捨てした女が居て、それがたまたま引火していくところを見た。
チャンスだと思った。前々からAのことが大切で大好きだったきんときは彼女とロマンチックな出会い方をして結ばれることを望んだ。
火事の中颯爽と駆けつける男。
これだけでもう脚本が書けるくらいにはありきたりでドベタな恋の始まりだ。
恋は盲目とはよく言うもので、頭はいいのに瞬発力で動く脳筋タイプだった彼は何の計画も立てずに炎の中に突っ込んだ。勿論ポイ捨て女を引き連れて。
中に入るともうそこそこ火が回ってきていた。愛しのAは起きておらずグースカと眠るばかり。ポイ捨て女は一酸化炭素をまともに吸ってパタリと倒れ込んでしまった。頬に食い込んだネイルチップがポロリと落ちて炎の中に消える。
そうだ、焼いてしまおう
誰一人として彼の思考を正す者は居なかった。その頃にはもう体が動いていてポイ捨て女を燃えやすい位置に動かしていた。カンカンと消防車のサイレンが遠くから聞こえる。きんときはAを横に抱いて、部屋を出た。
炎によって脆くなったコンクリートを容赦なく踏んで家を出る。
ぐったりとした彼女の焼けたところに触れればぴくりと体が揺れた。
生きているAに触れられる。
それだけで男の心は踊り、こんな面倒なことを頑張った甲斐があった！とスキップをしたい気分になった。もちろん愛おしい彼女を抱えてそんなことはしないが。
「すっごい不本意だけど俺とAに一切の関係はないからなあ…」
割れ物を触るように恭しく頬の煤を払う。
祈りを捧げる無垢な信者のような手つきの裏にドス黒い執念が渦巻いていることにきんときすらも気づかなかった。
ポトリとAのきんときの手に涙が落ちる。意識が今に戻された。
いつの間にかぐずぐずになった彼女の瞳を見て、舐めたら甘いのかなあ、なんて場違いなことを考えた。
念ず
1.
祈る
2.
我慢する
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ポム(プロフ) - シソラスさん» ありがとうございます、そう言って頂けて嬉しいです😭💕これからも頑張りますので是非よろしくお願いします🙏 (2月26日 0時) (
レス) id: 22cb62df43 (このIDを非表示/違反報告)
シソラス - どの作品も独特で不思議な雰囲気が漂っていてとても好きです…是非応援させてください。 (2月22日 15時) (レス) @page7 id: 1420bb5147 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ポム | 作成日時：2024年2月18日 19時
