✣✣✣ ページ7
彼は深海魚の人魚だろう。昔魚図鑑で見させられた、リュウグウノツカイにとても似ているヒレを持っていた。
いつ気づいたかにもよるがすぐにここに来れるはずがない。深海魚に限らず、高低差の激しいところを普通のスピードで上がろうとすると水圧やら気圧やらで体がおかしくなるのだ。
それに加えて、彼が外に出るときは毎回長い時間居なくなるのだ。大丈夫、落ち着け、それに会ったからといって話ができないわけでもない。
浅瀬につく、足がザラザラの砂に触れた。
『はっ、ふっ、だいじょう、ぶそうか、』
少しだけ息が苦しいけどこれくらいなら多分なんとかなるだろう。後ろを見ても、何も居ない。逃げ切れたみたいだ。
「何してるんだ」
冷めた目がこちらを見下ろす。見覚えのある顔が見覚えのない格好をしてそこに立っていた。白衣を羽織ってスーツを着て、足がある。
『スマイルさん？』
「嗚呼、思ってたより賢かったみたいだな」
『あ、のなんで…』
水に濡れた髪の毛を彼の手が優しく払う。愉しそうに目を細めて彼の指がそっと頬に触れた。一瞬顔を歪めたがすぐに幸せそうな表情に変わる。
今まで過ごしてきた中でも見たことのない早さで変わる表情に背筋がゾワリと粟だった。
「ふっ、お前は熱いな」
『すまいるさ、離して』
「ヤダって言ったら？」
拒絶の言葉は彼の口によって封じられた。人の姿をしているのに、明らかに人ではない体温が唇に触れる。ぬるりと滑った柔らかいものに驚いて口を開けば冷たい舌と、固形の何かが入ってきた。
飲まないように、と舌で押し返すもその舌ごと絡め取られて飲み込んでしまった。
『は！ぇ？スマイルさ、火傷』
「お前を手籠めにできるならこれくらい何てことはない」
彼は羽織っていた白衣を私にかけて横に抱えた。海の中にちょっとずつ浸かっていく身体、もう戻れないという恐怖感と彼と一緒に居られるという安心感が上ってくる。
「そういえばお前の両親が心配していたな」
「町内でも騒ぎになっているらしい、Aを見たら教えてくれと頼まれたよ」
「まあ教えてやらないけどさ」
薬が効いて眠たくなる。いつも通りに水中で呼吸ができることに安堵して、彼の腕の中で微睡んだ。この足があの砂を踏むことはもう二度とないだろう。
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ポム(プロフ) - シソラスさん» ありがとうございます、そう言って頂けて嬉しいです😭💕これからも頑張りますので是非よろしくお願いします🙏 (2月26日 0時) (
レス) id: 22cb62df43 (このIDを非表示/違反報告)
シソラス - どの作品も独特で不思議な雰囲気が漂っていてとても好きです…是非応援させてください。 (2月22日 15時) (レス) @page7 id: 1420bb5147 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ポム | 作成日時：2024年2月18日 19時
