✣✣ ページ6
――――――――
ここに来て何日が経っただろうか。太陽の光が幽かにしか入らない海の中では時間を把握するのが難しい。その上に3日も寝ていたので昼夜も逆転しているかもしれない。
彼、スマイルは存外優しい男だった。それに博識だ。真顔に見える彼の表情は思ったよりも分かりやすいし、滑舌の悪さも可愛らしいギャップのように感じる。
何週間か過ごしたからこそ分かるが、彼は私を陸に帰す気がないのだろう。たまに彼の友人が遊びに来ては私を背に隠して威嚇する。彼の友人は私を憐れむような目を向ける。彼らは彼らで人間とは違う言語があるらしく、それで話されると何も分からない。恐怖と安心が同居する胸中が気持ち悪い。
『……いない、よね』
彼が私に触れたときの温度を思い出す。思ったよりも冷たい手が私の肌に触れた瞬間に飛び退いたこととか。その際に「そんな体温で大丈夫なのか」と心底心配そうに見つめてきた瞳とか。
彼は命の恩人で親切な人だったけど、帰らない訳にもいかない。私の家は海の中ではなく陸の上だ。
生活には全く問題がないが、太陽の光を浴びないために精神も少しおかしくなってきた。帰らないと。
口から水と酸素が入ってくる感覚にも慣れた。こぽこぽと口から出る泡を最小限にして、斜め上へと泳いでいく。急上昇するのは怖いし、かと言って横に泳ぎ続けてもどうにもならない。
光が見えてきた。ゆらゆらと揺らめく波の間から見える光はまるでオーロラみたいだ。見たことはないけれど。
まずは目だけを先に出す。呼吸がどうなっているのかがあまり分からない。いつも薬を飲まされる時間が大体このくらいだから、最悪陸付近で砂遊びでもしていればなんとかなるだろう。
満月なことも幸いして自分の行くところは分かりやすい。泳いで30mといったところに灯台が見えた。見慣れた灯台、久しぶりに見た。子供の頃からあの光を見ては海に思いを馳せた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 97人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ポム(プロフ) - シソラスさん» ありがとうございます、そう言って頂けて嬉しいです😭💕これからも頑張りますので是非よろしくお願いします🙏 (2月26日 0時) (
レス) id: 22cb62df43 (このIDを非表示/違反報告)
シソラス - どの作品も独特で不思議な雰囲気が漂っていてとても好きです…是非応援させてください。 (2月22日 15時) (レス) @page7 id: 1420bb5147 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ポム | 作成日時：2024年2月18日 19時
