運命論者の悲み 6 ページ14
明るい陽の下を歩いているのは、黒髪の少女。
ポートマフィアと云うヨコハマの巨大犯罪組織の構成員とは思えぬ可憐さを纏った彼女は、御遣いの帰り道であった。
そして室生が見たのは、信じたくない光景だった。
「あらあらあらあら・・・」
目の前を埋め尽くす群衆。
硝子が割れる音。
悲鳴と、談笑する声。
音の発生源は、赤煉瓦のビルの四階から。
其処は武装探偵社である。
探偵社をマフィアが襲撃した、と云う所か。
ちらつく影から察するに、あの黒服集団は先程も会った黒蜥蜴だろう。
そして、劣勢なのは我等がポートマフィアだろう。
「だから云ったのに・・・樋口さんったら忘れっぽいんだから」
私の減らそうと思った仕事が増えましたよ。
ぽーんと路地裏に投げ出された同僚達を見て、室生はやれやれと肩を竦めた。
するりと人混みを抜け出し、彼等の下へ駆け寄る、途中で樋口に電話をかける。
黒蜥蜴からの報告を待っていたからか、電話を取るのが何時もより早かった。
『はい』
「樋口さん、私の忠告忘れたでしょう」
『え・・・?』
何時も礼儀正しい室生が、突然本題に入ったのに驚いたのだろう。樋口は零れ落ちた言葉を拾い倦ねてしまっている。
室生はそんな同僚の様子に、平和呆けしてるなと些か失礼な事を考えた。
「襲撃は失敗です。
『あ・・・』
暴力を返されるのは負債だと云う我等が首領の顔を思い出して、嫌な気持ちが数十倍に膨らむ。そんな事を本人に云ったら、「エリスちゃん室生君が非道い!」と彼の気に入りの少女に泣きつくのであろう。気持ち悪い。
顔を顰めつつも声色には出さないで場所を伝えると、電波越しにも樋口が焦っているのが判った。
『直ぐに向かいます!済みません室生さん・・・!』
そんな同僚の事が、室生は嫌いではない。
「此れが仕事ですので」
そう云って少女は微笑った。
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作者名:灘 むしとりあみ+ x他1人 | 作成日時:2016年7月6日 5時