七話 ページ8
亡くなった西田さんの家族が三浦埠頭で見つかったとの連絡があった。
ゆきなちゃんは一命を取り留めたが、母親は惜しくも亡くなってしまっていた。
解剖医の話だと、肺に水がほとんど入っていなかった事により自さつではなく、他殺の可能性が高いと。
守れなかった....、喪失感や無力感が一気に押し寄せてきてその場を離れてしまった。
外の空気を吸いに出ると、寒そうに手を擦り合わせているAの姿があった。
私「やっほ」
龍「Aっ....」
Aは僕の事を待ってくれていたようで、そんな彼女の姿に目頭が熱くなるのを感じた。
私「来てよかった。歩きながら話そう」
そう、柔らかく笑う彼女の姿に冷え切っていた心が少し暖かくなった。
龍「っ、うん...」
人気の無い線路沿いをゆっくりと歩いた。
私「娘さんは助かったみたいね...」
龍「うん」
私「ごめん、私がもっと早くあいつらの情報をっ....」
Aは拳を強く握りしめた。
その手を僕は優しく包み込む。
龍「Aのせいじゃないよ.....」
私「....、イクオのせいでも無いよ」
思わぬ返答に、俯いたいた顔をふっと上げた。
龍「.....、ふふっ。僕達って本当に似たもの同士だよね.....。考えてる事とか、感じてる事とかすごい似てるよね」
私「まぁ、兄妹みたいなもんだからね」
龍「僕さ....、まほろばで育ってよかった。あんな事があったけど.....、たっちゃんとAと出会えてほんっとうに良かった」
精一杯の笑顔をAへ送った。
私「やだ、イクオ....大袈裟。.......、でも私も！イクオと竜也に出会えたからこそ今の私があると思ってる」
Aの言葉に思わず嬉しくなり抱きついた。
そんな僕の背中を、Aは優しく撫でる。
あー、このまま時が止まってくれたらいいのにな.....。
そう考えてると、胸ポケットの携帯が振動する。
龍「あ、たっちゃんだ。はい。.......、わかった。すぐ行く」
電話越しに告げられた事実に声のトーンが低くなる。
同時に瞳から光が消えていくようだった。
龍「滝川の手下がはいたって。西田さん殺したのはやっぱり滝川みたい」
私「そっか....。行くんだよね」
龍「うん。あ、たっちゃんから伝言。事務所で待っててだってさ」
そういい、Aの頭を撫でる。
Aは複雑そうな表情のまま素直に頷いた。
Aには見せたくない、あんな俺達の姿を。
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作者名：翠晶 | 作成日時：2022年1月5日 0時
