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『お兄ちゃん!』
「A」
それはもう遠い昔に無くなった、穏やかな日常。今はそれを願うことすら、諦めている。
私と同じ黒髪をした4つ上の兄は、とある特殊な高校に通う人だった。
全寮制で人が少ない宗教系学校。当時の私はまだ幼く、兄の通う学校に疑問を抱くことは無かった。
「───それでね、悟が────悟は────」
悟。五条悟。
兄は長期休み辺りでいつも家に帰ると、学校の話をする時によく口にする人の名前。親友なんだ、と兄は照れながらも教えてくれた。
『お兄ちゃん。五条悟ってどんな人なの?』
顔も知らない兄の友人を妬ましく思いつつも、私はそう兄に聞いた。
兄曰く、五条悟は無駄に見た目がよく無駄に性格の悪い人、らしい。いじめっ子とかなのだろうか。
でも心から楽しそうに話す兄を見て、その言葉が本心でないというのは私にも分かった。
いつかうちに連れてくる。それが最後に聞いた兄の言葉だった。
人は変わる。そして人を取り巻く世界も変わる。
不変とは全くのファンタジーで、フィクションでしかない。
『……お父さん?お母さん?』
残暑。
帰宅した私を迎えてくれたのは両親ではなく、噎せ返る程の生臭い匂いと、色濃く残る兄の気配。
無意識に息が浅くなる。全身の穴という穴から汗が吹き出し、言い知れぬ恐怖が私を取り巻く。
私の本能が警告を告げていた。進んでならぬと。見てはならぬと。
けれども私はそれを無視した。いや、聞くことが出来なかった。
それは私がまだ、幼かったからかもしれない。
『お父さんっ!お母さんっ!!』
冷たい親の身を揺する。けれども瞼は固く閉じたまま。
私に触れている温もりは、両親から流れ出た命の液のみであった。
そこは分岐点だ。幾度も別れる道の中で、どれを選ぶかを決められるもの。
私が今後幾度となく繰り返すことになる、全ての引き金。
ここはまだ、スタートラインに過ぎなかった。
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天乃(プロフ) - ちょー面白いです!さいこう! (2022年3月14日 20時) (レス) @page13 id: 0d8f1d3fb5 (このIDを非表示/違反報告)
AG2(プロフ) - シオリさん» <( 'ω^ )かしこま⌒☆ (2022年2月23日 18時) (レス) id: 65f092b365 (このIDを非表示/違反報告)
シオリ - エマ・ワトソンって名乗っている子は『』を使ってもらえると見やすくてありがたいです🙇♀️作者様の漢字よくわかんなくて教えてもらって良いですか?!😳🙏 (2022年2月23日 14時) (レス) @page3 id: 36ddcc805a (このIDを非表示/違反報告)
。 - だいだいだいだい好きです笑 (2022年2月21日 22時) (レス) id: 08adf0175c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蝋燭 | 作成日時:2022年2月21日 22時