約束_55 ページ3
”繋げ”と書かれた赤い横断幕が入った袋と、恐らくそれをズタズタにしようとハサミを持っている先輩の腕を掴む
それは、わたしにとっても、皆にとっても大切な物だ
「は！？なんでアンタがここにいんのよ！？」
「貴方の彼氏さんにパシられてるからです」
ﾊﾟﾝｯ
部室に乾いた音が響く
頬の痛みと、反射で離してしまった手を見て
叩かれたのだと理解した
「また人の男誑かしてるわけ！？」
自分の事を棚に上げてぬけぬけと……
だけど、今は事を納めなければ
「身に覚えはありません。けど、思うところがあるなら怒るのも当然ですし、わたしに対して何したっていいです」
そんなもの、痛くも痒くもない
バレーが出来なくなった痛みに比べればなんてことない
今、わたしが恐れるのは
「皆の邪魔は、しないで下さい」
わたしのせいで、皆の練習が滞ることだ
「なんかヤバくない？ちょっと！聞いてんの？」
わたしのガチな雰囲気を察してか
彼女さんの連れは逃げ腰だ
だけど、肝心の彼女さんはそうじゃなかった
「〜〜っ！調子に乗ってんじゃないわよ！！」
そう叫びながら、手に持っていたハサミを
そのままわたしの顔面向けて振り上げてきた
はぁ！？普通そこまでする！？
とにかく、顔は守らないとやばい！
腕1本犠牲にする覚悟で
ハサミを受け止めるべく手を伸ばした
「……なぁ、何してんの？」
だけど、その手がハサミを受け止めることも
そのハサミが、わたしを傷つけることは無かった
「く、黒尾君！？」
そう呼ばれた彼が
わたしの後ろからハサミを持つ手ごと掴み
同時にわたしの体を自身の元へ引き寄せたからである
「これは、その……」
先程までの様子から一変、彼女達から感じるのは
予想外の出来事による焦りと
「コイツに、何しようとしたのかって聞いてんだよ」
「ひっ……！」
純粋な、恐怖
クロは別に声を荒らげて怒鳴っている訳じゃない
それなのにこの怯え様は、相当怖い顔をしているのだろう
止めないと、まずい
「クロ！大丈夫だから！怪我もしてないから！」
わたしの体を抱き寄せたまま
彼女達を睨み続けるクロに、そう訴える
普段あまり怒らない彼が怒っている
その怒りが爆発してしまったら
わたしは止める術を知らない
「そういう問題じゃ……って、おい！…あー、逃げられた」
その隙に、2人は逃げ出してくれた
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作者名：ama | 作成日時：2024年3月20日 1時
