この花を君に 6

20 ページ9

「……いまさら
いい人ぶるつもりないけど、
お前にこんな嫌な思い
させたくないんだよ。
自分のことを分かってもらえなかったり
誰かに間違われたりすんのに
見舞いに来る必要ある？」

「でも、今日は
ちゃんと分かってくださいました」

「今日はたまたま、だろ。
もしかしたらもう二度と
俺らのこと分かんなくなるかもしんないのに。
俺は孫だから最期まで付き合うつもりだけど、
お前はそんなことしなくていい。
実の息子すら来ねーんだから」



そう言われて、私はお見舞いに来たいけど
実の孫である広臣さんがそれを喜ばないなら
控えた方がいいのだろうか、と
ちょっと迷ってしまう。

すると、それが顔に出ていたのか
広臣さんは少しだけ表情を緩めた。



「今までありがとな。
お前が見舞いに来てくれて、
じーちゃん喜んでたと思うよ」

「……」

「前も言ったけど、あとは葬式に来てくれれば
『契約』は終わりにするから。
相続のことはまた詳しく話すけど、
一生遊んで暮らせるだけのものは渡せると思う」



そんな話は聞きたくなくて、首を横に振る。

契約があるから、財産がもらえるから
お見舞いに来ていた訳ではない。

私も富貴子さんと同じく、
何もしないで後悔したくない。



「最期までお側にいさせてください」



私の言葉に広臣さんは
複雑そうな表情を浮かべたけれど、
結局は頷いた。









頃合いを見て護衛の人と共に病院を後にすると、
いつもは笹野さんが迎えに来てくれているのに
今日はロータリーに社用車が停まっていた。

降りてきたのは隆二さんで、
後部座席のドアを開けてくれる。



「隆二さん！
クビにならなかったんですね、よかった……」

「あー、今のところ大丈夫。
なんか、臣の親父さんとこの運転手が
辞めちゃったらしくて運転手が足りてなくてさー。
笹野さんが駆り出されてるから俺がこっち来たの」

「そうなんですか……大変ですね」

「ほんとだよー。
金はあるんだから新しい運転手来るまで
ハイヤー呼べばいいのにね。
まあ俺はお姫様に会えてラッキーだったけど」



運転席に乗り込んだ隆二さんが
こちらを振り返って悪戯っぽく笑い、
車を発進させた。

21→←19

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す