この花を君に 6

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「お待たせ。
健ちゃん、頼む」

「おー。さっそくやけど
社葬には十中八九アマリアが来るから
お姫様には覚悟してもらわなあかん」



席に着いたとたん、山下さんはそう言った。



「弔問客を断ることはできひんから、
来られたら会場に入れるしかないねん。
あの女が何か騒ぎ起こしたら
もちろん追い出すけどな。
だいぶ切羽詰まってるみたいやから
何かやらかすかもしれん」

「そんな……葬儀の場なのに」



故人を悼むための場所で騒ぎを起こすだなんて、
考えられない。

さすがのアマリアさんも
そこまで人でなしではないだろうと考えていると、
「あの女に常識が通用するんやったら
こんな騒動になってへんやろ」と
山下さんが呆れた顔をする。



「何しでかすか分からんって
思っとった方がええで。
週刊誌出てから臣ちゃんもだいぶ気をつけてるし、
お姫様はなんせ護衛つきやから
接触したくてもできひんかった訳やん。
せやけど社葬やったら
臣ちゃんもお姫様もおるし、
何かやるチャンスやと思ってもおかしくない。
警戒しとくに越したことはないから」

「……はい」

「社葬そのものに関しては
全部社内の者が取り仕切るから
お姫様にしてもらうことは何もないんやけど、
絶対臣ちゃんの側を離れんといて。
もしかしたら社員のフリして
お姫様に近づいてくる奴がおらんとも限らんし。
トイレとかは女性の護衛つけるから
絶対ひとりで行ったらあかんで。
婚約披露の時も
トイレでアマリアに絡まれたしな」



相変わらず物々しい警戒ぶりで
戸惑ってしまうけど、
心配してくださっているのは
分かっているので頷いた。

お祖父様を悼む場を
乱すようなことはしたくないし、
してほしくもない。



「とりあえず臣ちゃんの側におったら大丈夫や。
いざという時はコイツを盾にして逃げてええで」

「やめろよ健ちゃん。縁起でもない」



どこか面白がっているような山下さんの言葉に
広臣さんは苦々しげな顔をしている。

そういえば、山下さんは今も
私たちの婚約が偽物だということを
ご存知ないのだろうか。

そもそも本当のことを言っていいものか分からず、
滅多なことは言わない方がいいだろうと
気を引き締めた。

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