この花を君に 6

29 ページ18

「いただいた優しさを
返したくても、
広臣さんは大人だから
必要ないとおっしゃるかもしれません。
でも、辛い時とか悲しい時とか、
苦しんでらっしゃる時に
広臣さんがひとりにならないように、
お側にいさせてほしいと思っています」



私は広臣さんに優しくしてもらって
とてもうれしかったけど、
広臣さんは私に優しくしてほしいなんて
思ってはいないだろう。

それでも、広臣さんが
孤独に苦しむことがないように
側にいて癒してあげたい。

以前は、広臣さんを癒してくれる
誰かがいればいいのに、としか思っていなかった。

でも今は、『誰か』じゃなく
私がそうしてあげたいと思う。



「……あの、私がこんなことを言うのは
差し出がましいかもしれませんが、
広臣さんを信じてあげてくださいませんか」



そう言うと、
お祖父様は怪訝そうな表情を浮かべた。



「週刊誌のことで、
広臣さんは私に信じてほしいって
おっしゃってました。
だから私は誰に何を言われても
広臣さんを信じます。
ただ、お祖父様に疑われて
本当は傷ついてらっしゃると思うんです」

「……疑われるようなことをした、
広臣が悪いとは思いませんか」

「思いません。
嘘を書いた週刊誌が悪いと思います」



きっぱりとそう答えると、
お祖父様は可笑しそうに笑った。

途端に咳き込んだので、
慌てて吸い飲みを取る。

背中をさすりながら咳が落ち着くのを待って
お水を飲ませると、
お祖父様は大きく息を吐いて
またベッドにもたれた。



「……Aさんは、本当に、
広臣にはもったいない方だ」

「そんなこと……
むしろ広臣さんは私にはもったいない方です。
お仕事がんばってらっしゃるところも
お友達がたくさんいらっしゃるところも
尊敬していますし、
かっこよくて優しくて、
お話しててとても楽しくて。
広臣さん以上に素敵な男性なんて
きっといないと思います」



私の言葉にうれしそうに目を細めたお祖父様が
視線を動かして呆れた表情を浮かべる。

どうしたのかと思って横を見ると、
なぜか広臣さんが口を押さえて
顔を真っ赤にしていた。

30→←28

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す