この花を君に 5

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「……末期がんなんだ。
見つかった時はあちこち転移してて
手遅れだった」



その言葉にショックを受けて横を見ると、
広臣さんは憔悴した顔で俯いていた。



「それでも、手術すれば延命はできるって
医者に言われたんだけど、
じーちゃんが拒否してさ……
長い間病院のベッドに縛りつけられるより
余命が短くなっても
死ぬ間際まで動き回れる方がいいって」

「……」

「延命治療はしないって決めて、
余命半年って診断されたんだ。
それで、お前と婚約することにした。
岩ちゃんからお前の話聞いて、
じーちゃんが思い描く
理想のお姫様だなって思ったから」

「……社長に、なるためでは、なかったんですか」

「いや、それもある。
じーちゃんはほんとギリギリまで
会長職に居座る気だったから。
けど俺が早めに社長になっとけば
繰り上がりで親父が会長になるから
じーちゃんを仕事から解放してやれるじゃん」



広臣さんは、仕事のためではなく
お祖父様のために私と婚約したのだ。

そういえば、
以前ウェディングフォトの撮影をした時
広臣さんは『写真見せて、
じーちゃんを安心させたかった。
俺はひとりじゃないし、
これから幸せに生きていくから
何の心配もないよって』というようなことを
おっしゃっていた。

私とデートしたり、登坂邸に私を連れて行ったり、
ウェディングフォトを撮ったり、
それらの行為は全て
私と仲睦まじくしている姿を見せて
お祖父様を安心させるためだったのだ。

今になって本当のことを知ってしまって、
どうしようもなく悲しみがこみ上げる。

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