この花を君に 5

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「生まれた子供の父親が
臣だと証明されても、
結婚するんですか」

「……それは、」

「婚外子がいるような男を信用できますか？」

「……」

「もし、そんな状況は
我慢できないと思うのなら……
臣に愛想を尽かして
もう結婚はできないと思ったのなら、」



若先生がそう言いかけた時、
廊下の方からドタドタという
乱暴な足音が聞こえた。

スパーン！と大きな音が鳴るほど
勢いよく襖が開いて、
黒いスーツに白手袋を嵌めた
運転手姿の隆二さんが現れたことに
驚いてしまう。



「おい！稽古場に勝手に入ってくるな」



若先生がしかめ面でそうたしなめても、
切羽詰まった様子の隆二さんは
聞こえていないようで
こちらに向かって手を伸ばしてきた。

私の手首を掴み、「お姫様、来て！」と
無理やり引っぱってくる。



「な、どうしたんですか、」

「説明は後でするから！」



突然のことに面食らってしまって、
稽古場から連れ出されても抵抗できない。

引っ張られるまま外へ出ると、
屋敷の前には黒塗りの社用車が停められていた。

後部座席に私を押し込んだ隆二さんが
慌ただしく運転席に回り、車を発進させる。

いつもなら私がシートベルトを締めたかどうか
確認するのにそれもなく、
全く余裕がないらしい隆二さんの様子に
困惑してしまう。



「あの……どちらへ、」

「病院。臣のじーちゃん、もうダメかもしれない」



その言葉に、息を呑む。

『もうダメ』というのはどういう意味なのだろう。

思いもかけなかったことを言われて
混乱していると、隆二さんは
「お姫様には言うなって言われてたんだけど」と
苦しそうに呟いた。



「もしこのまま臣のじーさんと会えなくなったら
絶対一生後悔すんじゃん。
だから臣が何と言おうと、
お姫様はじーさんとこに行くべきだと思う」

「……なんで、そんな、会えなくなるって、
意味が分かりません」



最近は週刊誌のことがあって
お祖父様にはお会いできていなかったけど、
1ヶ月前まではとてもお元気で
私の作ったお菓子を
おいしそうに食べてくださっていた。

なのに急に
『もうダメかもしれない』などと言われても
信じられなくて、
全く現実のことには思えない。

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