この花を君に 5

22 ページ27

「他の誰にも
信じてもらえなくても、
お前にだけは疑われたくない」

「……」

「あの日、すげーショックなことあって
行きつけの店でヤケ酒してたの。
そしたらあの女が来てさ……
外に連れ出されたのは覚えてんだけど、
そっから朝までの記憶がないんだよね。
目覚めたらホテルにいて、あの女が隣で寝てた。
けど俺ほんとにベロベロだったから
何もしてないと思う」



お酒を飲みすぎたせいで
記憶をなくすという話は聞いたことがあるので、
広臣さんもそうだったのかもしれないけど
『ベロベロ』というのはどういう意味なのだろう。

首を傾げていると、
「酔っ払ってたってこと」と補足した広臣さんが
眉を下げて笑う。



「信じてくれる？」



少し自信なさげに尋ねられて、
胸がきゅうっとする。

こくんと頷くと、広臣さんはうれしそうに笑って
顔を近づけてきた。

反射的に避けようとしたけど
ベッドの端ギリギリにいたのでスペースがなく、
逃げられない。

ビクビクしながら固まっていると、
おでこをくっつけられて
心臓がばくばく大きな音を立てる。



「ありがと」



至近距離で口を動かされると
くちびるがくっつきそうで、
ますます緊張してしまう。

ぎゅっと目を閉じて耐えていると、
鼻先をちょこんとくっつけられた感触がした。



「……そんな顔されたら決意が鈍るんだけど」



ふいにそう言われて、
意味が分からなかったので
つい目を開けてしまった。

すると広臣さんの顔がさっきよりも近くにあって、
息ができなくなる。



「もう手出さないって決めたのに
キスしたくなるから普通の顔してて」

「……なっ、」



衝撃的な発言に、顔から火が出そうになる。

慌てて布団の中に潜り込もうとすると
「あーごめんって、冗談だよ」と
押しとどめられた。

23→←21

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す