23 ページ39
広臣さんの体の温かさと
バニラみたいな甘いにおいに包まれて
ひっく、ひっく、と
しゃくりあげている間、
広臣さんはずっと頭を撫でてくれていた。
たまに頭のてっぺんにキスを落とされて、
そうされるとどきどきするのに
うれしいと思ってしまう。
泣く勢いが落ち着いた頃、
腕の力を弱めた広臣さんが顔を覗き込んできた。
きりっとした目が心配そうに細められていて、
親指で濡れたほっぺたを拭われる。
「あのさ、じーちゃんはあんなこと言ってたけど、
もしこの家にいたくないんだったらうち来る？」
その言葉にはっと息を呑むと、
広臣さんは涙を拭っていた手を
私の首の後ろに回した。
真剣な目に見つめられて
なぜか胸の奥が熱いようなうずうずするような、
不思議な気持ちになる。
「書類出したら
お前はもう『登坂A』だから、
うちへ引っ越すのに母親の許可を取る必要もない。
ごちゃごちゃ言われるのが鬱陶しいんなら
『花嫁修行する』って名目で出てきてもいいし。
まあ、あの家にはまだうちの親がいるから
気遣うかもしんないけど……
あいつらは朝遅いし夜も遅いから、
学校行ってるお前と鉢合わせることは
あんまないと思う。
この先自立すんのに
富貴子さんにひと通り家事習ってたら安心だしな」
その言葉に、『うち』というのが
登坂邸だということに気づく。
てっきり、広臣さんが
ひとり暮らししているおうちに
引っ越してもいいと
言ってくださったのかと思ったのに。
「……登坂邸じゃなくて、
広臣さんのおうちがいいです」
そう言うと、広臣さんは黙り込んだ。
登坂邸は広くて美しくて綺麗な庭園があって
素晴らしいおうちだし、
お祖父様も富貴子さんもいい人だ。
だけど、やっぱりよその家だし
養子縁組しても自分の家だとは思えないし、
婚約破棄した後は居づらくなるだろう。
だけど『契約』の相手である広臣さんのおうちなら
初めから分かっていることだから、
そんな心配はない。
なのに、広臣さんは呆れたようにため息を吐いた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2274人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「登坂広臣」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
なつめ(プロフ) - omikoさん» こちらこそ読んでくださりありがとうございます♪また更新がんばります！ (2019年10月17日 18時) (
レス) id: 273ec9fd08 (このIDを非表示/違反報告)
なつめ(プロフ) - 譲さん» ややこしいミスしてしまってすみません！そうなんです、腹黒なのは事実ですが実はいいお兄ちゃんだったんです笑 母親はひどいですよね(>_<)でもその分岩ちゃんが愛情を注いでくれました(^^) (2019年10月17日 18時) (レス) id: 273ec9fd08 (このIDを非表示/違反報告)
なつめ(プロフ) - mikkyさん» コメントありがとうございます♪せっかくの溺愛ぶりを飛ばしていてすみません……！ちゃんと載せることができてよかったです(>_<) (2019年10月17日 18時) (レス) id: 273ec9fd08 (このIDを非表示/違反報告)
なつめ(プロフ) - ユキさん» 想像するとたまりませんね(^^) (2019年10月17日 18時) (レス) id: 273ec9fd08 (このIDを非表示/違反報告)
omiko(プロフ) - 更新うれしいです(^^)ありがとうございます！ (2019年10月13日 16時) (レス) id: f68873c807 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：なつめ
| 作成日時：2019年9月13日 23時
