この花を君に 3

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「俺が悪い男の手本見せてやるよ。
こんなんに引っかかったら
絶対ダメだからな？」



そう言った広臣さんが
私の首の後ろにするりと手を回し、
反対の手で腰を引き寄せる。

端正な顔が近づいてきて
「ぎゃっ」と悲鳴をあげると、
広臣さんは可笑しそうに笑って
私のこめかみにくちびるを当てた。

その瞬間、広臣さんがいつも吸っている煙草の
バニラみたいな甘いにおいがしたような気がして、
脳みそがオーバーヒートを起こしそうになる。

何とか広臣さんを押しのけて
ベンチの反対側に倒れ込み、
熱くなった頭を抱えて唸ると
くくっという笑い声が聞こえた。



「弱みを見せてくる男には気をつけろ。
同情して油断したら、
今みたいにちゅーされちゃうからな。
分かった？」

「うう……」

「あと、男の優しさは9割下心だから。
優しくされたからって気を許しちゃダメ。
ぼんやりしてたらあっという間に食われるぞ」



何だかいろいろ言われているようだけど、
茹だっている頭では理解できなくて
返事もできない。

ベンチの上にうずくまったままでいると
「聞いてる？」と背中をポンポンされて
飛び上がりそうなくらいびっくりした。

慌てて起き上がって距離を取り、
ベンチの端で警戒しながら広臣さんを睨む。

私は生まれてこの方恋愛なんてしたことがないから
もちろん男の人とこんな濃厚な接触を
したことはないし、
したいとも思ったことがないのに
慣れているらしい広臣さんは余裕の表情で、
泣きそうになってしまった。

仮初めの婚約者でしかない私に
こんなことをしておいて笑っているなんて、
広臣さんは本当にひどい。

もしかしたらアマリアさんも
こんな風に弄ばれたのかもしれない。

なんて悪い人なのだろう。

いつも私の拙い話を聞いてくれて、
おいしいものを食べさせてくれて、
綺麗な花を見せてくれて、
とっても優しかったのに。

それらは全部、幻だったのだろうか。

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