この花を君に 3

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「臣ちょっと離れて、
向かい合って。
お姫様は気持ち俯いて……
そうそう、いくよー」



カシャカシャと写真を撮られる間、
身動きしないようじっと我慢する。

直人さんは三脚に立てた大きなカメラで
写真を撮ったかと思うと
ストラップのついた小さめのカメラを手にして
近づいて写真を撮ったり、
忙しなく動き回った。

手伝いをすると言っていたらしい兄は
特に何もすることはなく、
結局何をしにきたんだろうと不思議に思いながらも
指示された通りにポーズをがんばっていると、
やがて広臣さんにヴェールを上げられた。

その動きもカシャカシャと
カメラに収めていた直人さんが
「じゃあ次は誓いのキスしてもらおー」
などと言い出して、ぎょっとする。

そのせいでバランスを崩してこけそうになると、
広臣さんががしっと支えてくれた。



「危ね。大丈夫？」

「……全然大丈夫じゃないです」



私たちは仮初めの婚約者なのに
誓いのキスなんて出来るわけがない。

そもそもキスすらしたことないのに、と
青ざめていると、
広臣さんは私をなだめるように背中をさすった。



「フリでいいよ。
向こうからだと逆光だから
ちゃんとキスしてるように見えるし」

「え……
ど、どうやって、するんですか」



どぎまぎしながらそう尋ねると
広臣さんは優しく微笑んで
私の両肩に手を置いた。

端正な顔が近づいてきて、
鼻がくっつきそうなほど近くで止まる。

それだけで心臓が壊れそうなほどどきどきして、
卒倒しそうになった。



「臣、何もったいぶってんだよー！
ちゅーしろよー！」



カメラを構えた直人さんが
まるで駄々っ子みたいに喚いているけど、
とにかく早く終わってほしいとしか思えなくて
泣きそうになってしまう。

すると、広臣さんの顔が少し離れた。

ようやく解放されるのかと思って体の力を抜くと
こめかみに柔らかな感触がして、
不意打ちに心臓が飛び出そうになる。



「幸せな花嫁さんはそんな顔しないと思うよ。
笑って」



優しくそう囁かれて、涙がにじむ。

泣いてしまったらメイクが崩れてしまうと思って
目を瞬かせると、
顔を覗き込んできた広臣さんが
楽しそうに笑っておでこをくっつけてきた。

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