この花を君に 3

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広臣さんと
別れて入った新婦用の部屋には
ドレス担当のスタッフさんと
エリーさんの他に、なぜか兄がいた。

驚きのあまり声もなく立ち竦むと、
可笑しそうに笑った兄が
「ヘアメイクの岩田でーす」と
ふざけたことを言い出す。



「……何やってるの？」

「だから、ヘアメイクしに来たんだって」

「意味分かんないんだけど……
あの、エリーさん、
なぜ兄がここにいるのでしょうか」

「何でだろ？
なんか急に手伝いたいって言い出して
ついてきたの」



ニコニコしながら無邪気にそう言った
エリーさんの言葉は何の説明にもなっていなくて、
脱力する。

ヘアメイクを手伝うなんて
そんなことが兄にできるのだろうか。

一体どういうつもりなのだろうと思って
兄を睨むと、全く気にした様子もなく
「着替えておいで」と衝立の方を指差す。



「ウェディングドレスって
ひとりじゃ着られないんでしょ。
兄ちゃんが手伝ってやろうか？」



ニヤニヤ笑って
そんなことを言い出した兄を無視して、
衝立の中に入る。

ドレス担当のスタッフさんに
手伝ってもらいながら、
まずはAラインのウェディングドレスを着た。

前面の裾をたくし上げ、
やたら長い後ろの裾を
スタッフさんに持ってもらって衝立の外へ出ると、
兄とエリーさんがはしゃいだ顔で
手を叩いて出迎えてくれる。



「さすが俺の妹。すげー似合ってる」

「マジお姫様じゃん！超可愛いー」



兄はともかく、
エリーさんに褒められたのはうれしい。

顔を緩ませながら
「ありがとうございます」とお礼を言うと、
エリーさんがまるで王子様みたいに
私をエスコートして椅子に座らせてくれた。

髪の毛を手で梳いて、
「うーん、このドレスだと
やっぱアップがいいな」と呟く。



「32ミリで巻く？」



エリーさんにそう尋ねながら
兄が台の上のヘアアイロンを手に取った。

本気でやるつもりなのだ、と
恐れおののいていると、
エリーさんは平然とした顔で
「いや、最初はまとめるから26ミリで」と返す。

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