この花を君に 3

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「お待ちしておりました。
こちらへどうぞ」



茫然自失したまま窓側の席へ案内されて、
カウチに座る。

向かい側に座った広臣さんが
ウェイターさんに注文をして、
私を見て頬杖をついた。



「怒った？」

「……」

「びっくりして言葉も出ないって感じ？」

「……」

「ちゅーぐらい慣れてほしいんだけどな。
ウェディングフォト撮る時、
そんぐらいはやるし」

「無理です！」



反射的に叫ぶと、
「おっ、やっとしゃべった」と
広臣さんは楽しそうに笑った。



「無理って言われても
くっついたりちゅーしたりすんのは普通だし。
口にキスしないだけマシって思ってくんなきゃ」

「な、そ、そんなことするなんて聞いてません！」

「えー？言わなくても分かるっしょ。
これから結婚するふたりが
他人行儀に離れてる写真撮るわけないじゃん。
ラブラブで幸せですーって写真撮んないと」



事もなげにそう言われたけど
騙された、としか思えなくて
くちびるを噛みしめる。

写真を撮るためとはいえ、
ちゅーなんてされたら
きっと私はまた泣いてしまう。

そもそもこの婚約は『契約』でしかないのに
『ラブラブで幸せ』な写真を
撮らなければならないなんて
恋愛経験のない私には難しすぎる。

そう思って黙り込んでいると、
「別にお前から
ちゅーしてくれてもいいけど」などと
追い討ちをかけられた。



「そんなのもっと無理です……」

「じゃー大人しくちゅーされとけ。
お前が多少ぎこちなくても
いい写真撮ってくれる人に頼んであるから。
当日、楽しみだな。
何なら今からちゅーしとく？」

「無理です！」



慌ててそう返すと、可笑しそうに笑われる。

これはたぶん、からかわれているのだろう。

子供の私に意地悪を言って
楽しそうにしている広臣さんは
やっぱりひどい人だ、と思って
むすっとしていると、
ウェイターさんがやってきて
デザートのお皿を私の目の前に置いた。

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