この花を君に

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「とにかく。
お前と臣さんが婚約して
それを解消すんのは
双方にメリットがあることなの。
臣さんは社長になれるし、結婚しなくて済む。
お前は金もらって
キモいじじいと結婚しなくて済む。
臣さんからうちに大金が入ったら
俺もしばらく結婚しなくて済む」



岩田家を継ぐことが決まっている兄は
一刻も早く結婚しろと母親にせっつかれている。

これまではのらりくらりと
はぐらかしてきたようだけど、
30歳になった今は
さすがにそうもいかなくなってきたらしい。

本格的に持参金付きの相手を探し始めたと聞いて
危機感を募らせ、
広臣さんに泣きついたということなのだろう。

甘え上手なこの人が
広臣さんに取り入っている姿が
ありありと想像できて、げんなりする。



「俺と臣さんのことはナイショな。
バレたら母親に痛い腹探られそうだから」

「……はいはい」

「お前は自分がどうしたいかだけ
考えてればいいよ。
この家にいたら遅かれ早かれ
キモいじじいの餌食にさせられること
間違いなしだから
俺としては家を出ることをオススメするけど」

「うん……」



いくら婚約破棄されて大金が手に入ったとしても
それで手元に娘を置いておこうと思うような
殊勝な母親ではない。

ほとぼりが冷めたら
今度は別の男に売りつけようと思うはずだ。

気持ち悪い中高年男性に嫁がされるのは
さすがに避けたい。

それなら、広臣さんやお兄ちゃんに言われた通り
家を出ることを考えるべきだろう。



「なんかやりたいこととかないの？」

「うーん……急に言われても……」



遅くても高校を卒業するまでには
見知らぬ男と結婚させられることが
決まっていたので、
何かやりたいなんて考えたこともなかった。

花嫁修行の一環で
華道、茶道、琴、ピアノ、習字、料理教室など
いろんな習い事をさせられたけど、
それはやりたくてやっていたわけではない。

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