この花を君に

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次の日、
自室でお気に入りの籐の椅子に座り、
まったり読書をしていると
兄の剛典がやってきた。

挨拶もなくベッドに座り、足をだらんと伸ばす。

王子様みたいな見た目の割に、兄は行儀が悪い。



「臣さんから話聞いた？」

「……臣さん？」

「登坂広臣。昨日顔合わせしたんでしょ」

「あ、うん……半年後に、婚約破棄するって」

「そうそう。
だから言われた通り準備がんばってね。
そこそこ稼げる男見つけて
そっちに乗り換えるもよし、
就職するもよし、進学するもよし。
家を出るのに金がいるなら
臣さんが全部出してくれるし」

「なんで？」



向こうの都合で婚約破棄をしたとしても
私のために余分にお金を使うことが
広臣さんのメリットになるとは思えない。

そもそも婚約破棄をすると決めている
理由も知らない。

そう言うと、お兄ちゃんは目を丸くした。



「臣さんは何も言ってなかったの？」

「理由はお兄ちゃんに聞けって」

「こっちに丸投げかよ！
……うーん、まあ、婚約してから
結婚やめるっていうのは、
向こうにも俺らにもメリットがあるというか」



そう言って、お兄ちゃんは困ったように笑った。



「登坂グループは臣さんの父親が社長で
じーちゃんが会長っていうのは知ってるよな？」

「うん」

「けど臣さんのじーちゃんが未だに実権握ってて、
臣さんの父親は
じーちゃんほど有能じゃないんだって。
臣さんは副社長だけど早く社長になりたいし、
じーちゃんを引退させたいと思ってる。
だけどそれには結婚、
それもじーちゃんが納得するような相手と
結婚する必要があるらしい」



兄が言うには
広臣さんは結婚なんて興味がなく、
今まで独身を貫いてきたけど
お祖父さんに『ひ孫の顔が見たいから
結婚するまでは会社を継がせない』と
言われてしまったらしい。

お祖父さんが喜びそうな相手として選んだのが
岩田の娘である私で、
婚約すれば社長になれるだろうと考えた。

だけど結婚なんてしたくないから
社長になれたら理由をつけて婚約破棄する。

私は広臣さんに利用される形になって
可哀想だから、
家から出て自立できるよう
便宜を図ってくれるとのこと。

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