この花を君に

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「じゃあ、どうして
婚約破棄をするおつもりなんですか」

「詳しくはお前の兄貴に聞いて」

「兄と知り合いなんですか？」

「知り合いっつーか、うん、まあ。
それも兄貴に聞いて」



兄の剛典が登坂グループの御曹司と
付き合いがあるだなんて、知らなかった。

出身校が同じということもないし
広臣さんは兄より年上だし
接点が思い浮かばない。

婚約破棄という話に
なぜ兄の名前が出てくるのか分からず、
婚約破棄される理由も分からず、
モヤモヤしている私にはお構いなしに
広臣さんは話を続けた。



「とりあえず半年間は婚約者として
やることやってもらうから。
特にじーちゃんと顔合わせる時は
めっちゃ猫かぶってて。頼むわ」

「え……」

「来週、ふたりで食事行くぞ。
上手くいきそうだって
お互いの親にアピールしとかなきゃ。
水曜空いてる？」

「あ、はい……来週から春休みなので」

「あーそっか、お前高校生だっけ。
じゃあ無難にランチにしとくか」



そう言いながら、
広臣さんは煙草や携帯灰皿を
内ポケットにしまった。

渡り廊下の方に足を向けて、歩き出す。

話は終わったのだろうか。

あまりにも一方的にまくし立てられて
この状況についていけなくて頭がぼんやりする。

すると、私が立ち尽くしていることに気づいた
広臣さんが振り返った。



「何やってんの。戻るぞ」

「……」

「エスコートが必要ですか？お姫様。
参りましょう」



冗談めかせてそう言った広臣さんが戻ってきて、
私の手を取る。

手を引かれるまま渡り廊下に戻り、
こけないよう慎重に裾を捌いて草履を脱いだ。

渡り廊下を歩きながら
私の手を引く広臣さんの後ろ姿を見る。

お祖父様孝行のために
岩田の娘と婚約した広臣さん。

なのになぜ婚約破棄なんてするつもりなのだろう。

兄と知り合いだからか
うちの事情にもずいぶん詳しいようだけど、
彼の意図が分からず困惑する。

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