この花を君に

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「すみません……」

「いやいや、
いきなり勢いよくしゃべりだしたから
びっくりしただけ。
何だっけ、華道の話？」

「いえ、すみません、
つまらない話をしてしまって、」



お庭を作るのがお好きらしいお祖父様は
私の話を楽しそうに聞いてくださったけど、
興味がない広臣さんに対して
同じように話してはいけなかった。

おまけに広臣さんは仮初めの婚約者で、
仲よしのお友達ではないから
私の話を聞く義務はない。

なのにそれを忘れて
調子に乗ってしまったことが恥ずかしくて、
顔を上げられずにいると
優しく頭をポンポン叩かれてびっくりした。



「つまんなくなんかないよ。
花の話してるお前楽しそうだもん。
いつもと違って」

「え……？」

「普段あんましゃべんないじゃん。
まだ会って3回目だから
緊張してるのかもしんないけど。
だからさ、好きなこと話していいよ。
ちゃんと聞くから」

「でも、広臣さんは
お花にあまり興味がないんですよね？」

「まあ、じーちゃんみたいに庭作ったり
お前みたいに花を生けたりする趣味はないけど。
花見たら綺麗だなとは思うし、
華道の話は興味ある。
小林流の若先生にはたまにお世話になってるし」



その言葉にびっくりして顔を上げると、
広臣さんは笑みを浮かべてちらりとこちらを見た。



「うちの従業員研修で教えてもらったり、
イベント事があったら
会場のフラワーアレンジメントを
やってもらったりしてんの」

「そうだったんですね……
知らなかったです」

「あの人普段そういう仕事
あんまやんないらしいからなー。
小林流って、己の道を追求する、みたいな
ストイックな流派なんでしょ？
俺は特別なツテがあるからやってもらえんだけど」



兄だけでなく、若先生とも知り合いだなんて
広臣さんはずいぶん顔が広い方なのだなと思う。

学校と家と習い事しか行くことがなく、
狭い世界で生きている私とは別の世界の人。

お仕事をバリバリしていて、
兄のような気の置けない友達と遊んで、
好きな場所に好きなだけ行けて、
自由に生きてるんだろうなぁと思うと
少しうらやましい。

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