この花を君に

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懐石はひとつひとつが小作りで
量が少ないとはいえ、
きつく帯を締められた状態では
そんなにたくさん食べられない。

焼き物を少しずつ口に運んでいると、
広臣さんが食べ終えたことに気づいた母親から
咎めるような視線を送られる。



「のろまな娘でお恥ずかしいですわ」

「いえ、とても素敵なお着物をお召しですもの。
お気持ち分かりますわ。
Aさん、無理なさらず
ゆっくり召し上がってくださいませ」



広臣さんの母親にそう声をかけられて
「……申し訳ありません」と頭を下げる。

ずっと黙っていたからか声が掠れて、
それを少し恥ずかしく思った。









もたもたしながらも食事を終えると、
ひと息ついたタイミングで
広臣さんが私の母親に向かって口を開いた。



「Aさんとふたりで
少しお話させていただきたいのですが、
よろしいでしょうか」

「ええ、もちろん。では席を外しましょう」

「いえ、こちらの中庭にコブシが咲いてまして。
とても美しかったので
Aさんをご案内しようかと」

「まあ素敵。
A、広臣さんに連れて行ってもらいなさいな」



母親にそう言われて、仕方なく頷く。

いくら見目麗しい人とはいえ
初対面の男性とふたりきりになるのは気が重い。

だけどあちらからの申し出を断れる訳がなく、
立ち上がった広臣さんの後をついて部屋を出た。





廊下を歩き、奥の方へと進む。

やがて渡り廊下が見えてきて、
右手に中庭があるのが分かった。

廊下の傍からそちらへ下りられるらしく
置いてあった草履に足を入れた広臣さんが
振り返って手を差し伸べてくれる。

実の兄以外の男性にエスコートしてもらうなんて
ほとんど経験がなくてどぎまぎしてしまったけど、
着物なので仕方なくその手を取り、
慎重に足を下ろして草履を履いた。

「ありがとうございます」とお礼を言うと
ニコッと優しく微笑まれる。

紳士らしい自然なエスコートといい
えくぼの浮いた甘い笑顔といい、
すごく魅力的な男性なのに
どうしてこの人は
岩田家の娘と結婚しようなどと思ったのだろう。

登坂家は昔風の言い方をすれば成金で、
家柄のよい娘を嫁にすることで
家名に箔をつけたいのかもしれないけど
私を買う対価に払う金額と
メリットが釣り合っていないように思える。

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