この花を君に

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広臣さんと約束していた
水曜が来て、
朝から張り切った母親に
着せ替え人形のごとく扱われた。

子供の頃から公の場に連れて行かれる時は
母親が私の身支度を整えていたので
慣れているけれど、
化粧をされるのは正直面倒だ。

マスカラやアイシャドウを塗ると
目を触れなくなるし、
鼻をかむのも気を遣うし、
口紅やグロスは食事のたびに
塗りなおさなくてはならない。

だけど登坂グループの御曹司に取り入ろうと
気合い充分の母親に
そんなことは言えるわけもなく、
念入りに化粧を施された。

髪も軽く巻かれて、緩く編まれる。

今日の服装は
Aラインのワンピースにノーカラーコート。

若い女の子向けブランドの
可愛らしいショルダーバッグ。

5センチヒールのパンプスを履かされて外に出ると
門の前に黒塗りの高級車が停まっていた。



「おはようございます」



車の外に立って待っていたらしい
広臣さんが私を見て、
優しく微笑んで挨拶してくる。

緊張を押し殺し、挨拶を返して会釈をすると
広臣さんは後ろからついてきていた母親に向かって
「Aさんをお借りします」と頭を下げた。



「いえ、こちらこそ娘をよろしくお願い致します。
A、粗相のないようになさい」

「……はい」

「じゃあ行きましょうか」



広臣さんにそう声をかけられて頷くと、
白い手袋をはめた運転手さんが降りてきて
後部座席のドアを開けた。

広臣さんが先に乗り、
中から手を差し出してくれる。



「お手をどうぞ、お姫様」



ニッコリ笑ってそう言った広臣さんは
王様みたいだと思った。

うちの兄が綺麗ですらっとした王子様なら
広臣さんは大人の色気と貫禄がある王様。

今までの人生になかったシチュエーションに
どぎまぎしながらも手を伸ばし、
エスコートされながら車内に乗り込む。

すると運転手さんが後部座席のドアを閉め、
車に乗り込んでから窓を開けてくれた。

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