この花を君に

11 ページ11

「え、他の習い事はともかく
華道はめっちゃ真面目に
やってなかった？
家の花もお前が生けてんでしょ？」

「うん。確かに他の習い事よりかは楽しいけど。
だけど小林流は実子にしか家元を継がせないし、
華道だけで食べていくのは無理だもん」



私が師事している小林流は
室町時代から続く由緒正しき流派だけど、
大衆にいけばなを広めるというより
己の技を磨くことに重きを置いているので
大規模な流派より会員数も少なく、
師範や師範代の数も少ない。

なので趣味で華道を極めたいと
思っている人が多く、
小林流の師範として生計を立てることは
難しいだろう。



「じゃあ小林の若先生と結婚すれば？
そしたら好きなだけ花生けれるじゃん」

「適当なこと言わないでよ。
若先生は先生だし、
向こうだってこんな子供は嫌でしょ」



そもそも若先生は30代半ばだと聞いているので
広臣さんより年上のはずだ。

60前後の中高年男性よりはマシかもしれないけど、
子供の頃から指導していただいている先生と
結婚なんて考えられない。



「若先生は堅物そうだもんね。
まあ一応考えときなよ」

「えー……」

「えーじゃない。
結婚が嫌なら就職するなり進学するなり、
好きにすればいいから。
せっかく臣さんが金くれるっつってんのに
それが母親の懐に入っただけで
お前はまた他の男と結婚させられるとか、
そういう無駄なことにだけは
ならないようにしろよ。分かった？」

「……はーい」



ただでさえ毎日のように
母親の小言を頂戴しているのに、
兄にまでお説教をされてはかなわない。

渋々肯定の返事をすると、お兄ちゃんは
「ほんとに分かってんのかなー、このお姫様は」と
眉をしかめて呟いた。

12→←10

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す