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その子は佐倉巴、と云う子であった。
そしてAの云う通り、手首には縛られたような痣があった。
「えええっと…好きなことは…得意なことは…ええっと…」
引かないでください、と一言付け足して
「呪いごとが…」
Aと二人して、魔女じゃん、そう呟いていた。
Aも冗談8割で云ったつもりらしく、相当驚いていた。私もかなり驚いた。
本当にあの魔女だったらどうする？
そう聞こうと私の横に立つAを見上げると、虚無を感じる瞳で佐倉巴を見ていた。
「どうしたんだい？」
「…なんでも…」
ふと、佐倉巴と目があった。
そして凄い速さで此方に駆け寄った来たのだ。
叫びながら。
「おおああああああああ！！！
貴方が、太宰治さんですか！！」
私は一旦凍りついた。
え？
その響きだけが頭にしか入ってこなかった。
「そう…だけど？」
「心中、したいです！！」
そう云う瞳には、私とは違う何かを感じた。
「…ごめん、私はそう云う意味でしたいわけじゃないんだ。」
「え…」
「君のような人が死んだらきっとみんなが悲しむだろう。だから私は君とはしない。」
「太宰が珍しく断ったな。」
別に美しくないから、とかじゃない。
彼女はとても綺麗だった。
しかし、私が求めているものとは違った。
私はその時ふと、気がついた。
Aをなぜ、こんな所まで連れてきて救いたいかがわかった。
救いたい、と云うよりも彼女に人としての興味がある。
それの理由がわかった。
そう、彼女は私と似たような虚無を持っていたのだ。
佐倉巴にはなくて白金Aにはある、特有の虚無。
私は、きっとそれに引かれていたのだろう。
佐倉巴が、この場からいなくなった時、私はAに話しかけた。
「A、君は私と似ているね。」
そう、話しかけた。
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作者名：ミュータント菌 | 作成日時：2019年5月19日 19時
