雨降り日和 (ページ8)

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「拒否権無いから」
「でも、もし風邪でも移してしまったら……」
「大丈夫大丈夫、あの人たち強いし」
「で、でもそもそも迷惑ですし」

　病院を出てからこの調子でずっと押し問答状態。私がいくら言っても彼は折れないみたいだ。

　しかし、会話の主導権を握っているのはどちらとも言えないと言えど、運転の主導権を握っているのは完全に彼で。

　家に向かうならとっくにもう曲がっていなくてはいけないのに、曲がる様子は全然なくて、私にはもうどうすることもできないようだった。

　ついに来てしまった。

　彼がインターホンを押し、「連れてきた」と一言言うとすぐに扉は開いた。

　顔を覗かせたのは伊沢さん。テレビで何度か拝見したことがあった。

　面白そうに私と川上さんを交互に見た後、「どうぞどうぞ、入って」と、快く中に入れてくれた。

「お邪魔します……」

　中に入ると男の人が伊沢さん以外に3人。
　一人は河村さんと言っただろうか。見た動画に出ていた気がする。不思議な雰囲気で印象的な方だったから、彼の名前はぼんやりと覚えていた。

　他の人は見たことがあるような、ないような……。

「どうぞ、座って。あ、でも体調悪いんだもんね。仮眠室に案内するから、とりあえず寝ちゃった方がいいかな？」
「本当に突然すみません……。お邪魔している立場の私が決められないので……」
「そんなに気にしないでよ。男ばっかのオフィスだから、華があって嬉しいよ」

　伊沢さんはにこにこと笑い、愛想よく私に話しかけてくれた。
　その後、私は一旦仮眠室で眠ることが決まり、川上さんは「じゃあ、よろしく頼みます」と言って、少し急ぎ足で出て行ってしまった。

　誰かが帰ってきた音がして目が覚めた。一瞬ここがどこなのかわからなくなったが、こざっぱりした部屋と丁寧にかけられた布団を見て状況を思い出した。

　壁にかかっている時計はもう19時前。ここに来たのはお昼頃だったからずいぶんゆっくり寝たらしい。
　そのおかげか、眠る前より身体は断然楽になっていた。

　コンコンと扉を叩く音がして、返事をすれば今帰ってきたのであろう川上さんが入ってきた。

「起きてた？」
「いや、今ちょうど起きたところで。おかえりなさい、川上さん」
「うん、ただいま。じゃあ向こう行く？」
「お邪魔じゃなければ」
「邪魔なわけないでしょ」

　ベッドから降りて、皆がいるリビングへと向かった。