雨降り日和 (ページ6)

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　ゼリーを食べるため、ベッドから降りようとすれば「そこで大丈夫」と言ってくれ、彼の気遣いには昨日から感心してばかりだ。

　ゼリーを受け取り口に運ぶと思っていたよりは手が進み、全て食べきることができた。

「じゃあ病院行こうか。服はそのままでいいと思うけどどうする？着替えるのも大変でしょ」

　着替えることを考えると既に憂鬱だ。彼がいいと思っているなら別にいいかと思い、首を縦に振った。

「もう予約とってあるから、そろそろ時間だし行こう」

　なんだこのスマートさは……。一瞬頭が白くなりかけたが、すぐに思考を取り戻してベッドから立ち上がろうとした。

　半分ほど立ち上がったところで視界が揺れ、前に体が傾こうとしたが、彼はすぐに手を取ってくれた。

「おっと……。歩かせるのは危ないか。おんぶするから乗って」

　目の前にはしゃがんだ彼の背中。素直にそこに乗ると彼は軽々と立った。

　マンションから歩いて数十秒、車が数台ある駐車場についた。白の車にのせられ、車はゆっくりと発進した。

「ところで、なんであんなにびしょ濡れだったの？傘忘れたん？」

　ぽろっと彼から出たのは聞きなれないイントネーション。川上さんは関西の人なのかもしれないなあ、とぼんやり思う。

「大学から帰ろうとしたら、置いておいた傘がなくなってて。仕方なく歩いて帰るしかなくて」
「盗まれた？」
「たぶん……」
「タクシーでも呼べば良かったのに」
「お金かかりますから、そんなもの呼べませんよ」
「バイトは？」
「体調を崩しがちで、すぐクビになっちゃって……」
「それは辛いな」

　彼はこちらを見ることなく、真っ直ぐ前を見ている。その横顔はかっこよくて。男の人の運転している車に乗るだなんて、よく考えれば初めてのことだ。

　意識した途端なんだかドキドキして。ただでさえ熱い頬が、より熱くなることを感じた。

「そういえば大学はどこに行ってるの？」
「東大です」
「じゃあ、一緒か。……バイト紹介するって言ったらどうする？」
「それは嬉しいですけど、ご迷惑をおかけしてしまいますし……。しかもそうなったら川上さんの顔に泥を塗ることになってしまいます」
「そっか。もうすぐ着くよ」

　小さめの白い建物がぽつんと建っている。都会の町医者のようなところか。

　彼の表情からは何を考えているか読めない。けれどなにかを企んでいるようなことだけは、女の勘とか言うものでなんとなくわかる気がした。