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「じゃあ、失礼します！」
そう言って勢いよく立ち玄関へと足を踏み出したが、それは呆気なく阻止されてしまった。
ぽすん、と軽い音。頭上には彼の顔。とてつもないデジャヴ感。
「駄目です。はい、体温計。測って」
いつ取ったのか彼の手には体温計があり、私に手渡す。彼の腕の中はなんだか暖かくて、帰らなくちゃいけないと思っていた気持ちがなんだかしゅーっと音をたててしぼんでいった。
冷たい体温計を脇に挟み、そのまま待つこと30秒。ピピピとなった体温計を取りだしディスプレイを見れば、思わずげっと言いたくなるような数字。
「どうだった？」
「思っていたより高くないです」
咄嗟に嘘をついたけれど、彼に握っていた体温計を奪われてしまってもうこの人にいいなりになるしかないな、となんだか諦めの気持ち。
「39℃超えてるじゃん。布団入って、もう寝よう」
彼にそのまま抱っこされて布団の中に押し込められる。彼が座っていたところがまだ少し体温が残っていて心地いい。
「ゼリーとか食べれる？」
「食欲はあんまりないです……」
「じゃあ一旦寝ちゃった方がいい」
寝転がると一気に身体のだるさが襲ってきて「わかりました」と言おうと思ったけれど、声が掠れて彼には届かなかった。
彼の生活音が耳に優しい。一人暮らしで、もうずいぶん部屋に他人がいるなんてことがなかったから、他の人が具合が悪いときにいてくれているという事実がなんだか安心した。
幸せだなあ、と思いながら落ちてくる瞼には逆らえず、そのまま眠りについた。
目が覚めたのはまだ外が真っ暗な頃だ。
川上さんはどこにいるんだろう、と辺りを見渡すとソファーにブランケットをかけて静かに眠る彼の姿があった。
申し訳ないとは思いながらも、ここは甘えようと持ち上げていた頭をおろした。
いくら寝返りを打っても、だるすぎるからだは寝付こうとしてくれない。寝なきゃ寝なきゃと思うほど、睡魔から遠ざかっているようで孤独感だけが積もった。
カーテンの隙間から夜空が覗く。綺麗な月が見えて余計に泣きたくなってくる。
「……起きちゃった？」
ソファーの方からした声に方が跳ねる。
「川上さん……、起こしちゃいました？」
「なんとなく起きた」
彼はそう言って立ち上がると、あくびをひとつしてこっちに来てくれた。
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作者名：あーち | 作成日時：2019年11月12日 18時
