雨降り日和 (ページ12)

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「マイナスだなんて。むしろ本当にプラスになりました。川上さんのおかげです、ありがとうございます」
「別に俺はなにもしてないよ。頑張ったのは木崎さんだし」

　川上さんの言葉に顔をあげると、今日はじめて彼と目があった。

　数秒の沈黙に、なんだか恥ずかしくなって目をそらせば彼はぱたんとノートパソコンを閉じた。

「暗くなってきたし、一緒にご飯行く？」
「そうですね、行きましょうか」

　彼からの誘いはあまり珍しいことではなく、近頃は一週間に少なくとも二回はご飯を食べに行っている気がする。

　夕飯を食べたあとに一緒に帰れるし、色々便利なのだ。

　でも、きっと理由はそれだけじゃないんだろうとぼんやり気づいていた。
　気づかないふりは難しいことじゃなくて、いつもみたいに過ごすだけでいいから別段気にしないようにしていたけれど、最近は妙に意識してしまう。

　二人でご飯を食べに行くのも、二人でベランダで話すのも、二人でオフィスにいるのも。

　その理由はなんとなくきっとわかっている。それでも、その理由に蓋をして見えないようにしているのは皆に幸せでいてほしいから、なんて。

　それでも一緒にいたいと思ってしまうのは私の我が儘なのだろうか。

「支度できた？」
「あ、もうちょっと」
「今日なんかちょくちょく意識飛んでそうだよね。なんかあった？」
「いや、明日の朝ごはん何にしようかなー、とか」

　今の笑顔ひきつっちゃったかななんて思ったけど、彼は「何それ」と言って笑ったのでセーフってことにしておこう。

「ごちそうさまでした」
「たまには奢らないと顔がたたないから。じゃあ、また明日」
「はい、おやすみなさい」

　玄関先で別れを告げ、中に入る。

「さっむ……」

　暖房をつけ、布団にくるまった。静かになると色々考えてしまって、気持ちは沈むばかりだ。

　QuizKnockの動画班のたった一人の女の子。反感を買わないはずなんてなかったが、実際それが表に出てくることは数えるほどしかなかった。

　でも、それはみんなが知っている話であって。

　不意に涙が溢れそうになって、布団を顔までたくしあげた。

　隣の部屋には優しい彼、でも私と彼を隔てる一枚の壁は思ったよりも厚くて。

　壁に手を沿わせれば、冷たさがじんわりと伝わってきた。

「大丈夫……」

　自分に言うように吐き出した言葉はそのまま落ちていった。
　