雨降り日和 (ページ2)

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　あっと言う間もなく身体が傾くのを感じた。背中を打ち付けたらコンクリートだし痛いだろうななんて思いながら、もうどうしようもないかと重力に身を任せた。

　しかし、自分がぶつかったのはコンクリートではなかった。頭上にはさっき鍵を拾ってもらった彼の顔。

「フラフラじゃん」

　今彼の腕の中にいるのかとやっとのことで気がつき、立ち上がろうとしたがふらつく足では到底立ち上がることなんて出来なくてもう一度彼の腕の中に収まった。

「すごい熱……、立てる？」

　彼に肩を支えられようやっと立ち上がる。
　そういえば、私は今びしょびしょで彼の腕の中にいたのかと思い、彼を見ると彼の服は濡れてしまっていた。

「すみません、濡らしちゃいましたね」
「いいよ、こんなの。それよりその熱でその姿はさすがに心配」

　彼は少し考え込むように俯いた後、はっとしたように顔をあげた。

「俺の部屋来る？」
「そ、そんな初対面の男性のお部屋に上がるなんて出来ません」
「でも一人暮らしで部屋のなかで倒れたりしたら大変だよ、病人の女の子に手を出すような真似はしないし。決まりね」

　彼に押しきられ、そのまま彼につれられ階段を上る。
　偶然にも彼の部屋は私の部屋のとなりだったようで。
　「ちょっとまって」と言って彼は鞄から鍵を取り出し、扉を開けた。

　彼の部屋に遠慮がちにお邪魔させてもらうと彼はすぐにぱたぱたと中へ行き、真っ白なバスタオルを一枚持って帰ってきた。

「今お風呂炊くから、とりあえずそれで拭いて」
「ありがとうございます」

　ありがたくタオルを受けとり、髪の水気を拭き取っていく。玄関には既に小さな水溜まりが出来ていて、申し訳ないことをしてしまったなあと罪悪感に駆られた。

「その濡れようじゃさすがに中には入れないか。すぐに炊けると思うし、もうお風呂いっちゃう？」
「お任せします」
「じゃあ入っちゃうか。今着替え持ってくる」
「わざわざすみません……」

　お風呂場に案内され、グレーのスウェットを渡され、彼は風のように去っていった。

　濡れに濡れた服を脱いでいると彼の声がドア越しに聞こえてきた。

「熱結構あるから、あんまり長湯はしないでね。身体の震えが止まったら出ておいで」

　優しい人なんだなあ、となんだか口角が上がってしまって。
　そういえば結局誰だったんだろうとやっぱり疑問に思ったけれど、まあいいかとそんな疑問はすぐに消してしまった。