雨降り日和 (ページ1)

今日:8 hit、昨日:0 hit、合計:20,800 hit

一章 1 ページ1

¨

　凝り固まった肩をうんと伸ばし、時計を見れば既にその針は7時を回ろうとしていた。
　そろそろ帰るか、と図書館を出たところで傘立てに置いておいた傘がなくなっていることに気がついた。

　やられたな、瞬時にそう思ったのは今朝は快晴だったから。天気予報を見ずに朝の天気だけを見て傘を持たずに来た人がこのどしゃ降りの雨を見て持っていってしまった、というところだろう。

　まあいい。私がびしょ濡れになる一方で、誰かが濡れずに帰れるのなら世界全体の幸福度は変わっていないわけだし。

　朝の天気予報は、雨がやむのは明日の朝と言っていた。このまま帰るしかないだろう。

　この前治ったばかりの風邪をぶり返すに決まっている。体力も免疫力も人よりだいぶ劣る私は、一度風邪を引くと重くなりがちだ。帰ったあとのことを考えると自然とため息がこぼれでた。

　まあ、そんなことを言ってうじうじ悩んでいても仕方ないと覚悟を決めて外へと飛び出した。

　20分程歩いたところでやっと家が見えてきた。その頃にはもう頭の先から足の先までぐっしょりと濡れていて、端から見たら捨て犬にでも見えているんじゃないだろうかと思う。
　もう足元がおぼつかなくて、ああやっぱりぶり返したかなと頭の隅で考えた。

　なんとかマンションのオートロックキーを取り出し挿そうとしたが、冷えて感覚の無くなった指先では上手くいかず鍵は高い音をたてて下へと落ちた。

　もう、とそこで泣き出したい気持ちだったがなんとかこらえ鍵を取ろうとする。しかし、私が取るよりも早く大きな手がそれを拾い上げた。

「大丈夫ですか」

　鍵を拾ってくれたのは高身長の男の人で、ぼーっとしている私に「はい」と鍵を握らせてくれた。

「あ、ありがとうございます。すみません」

　はっとしてお礼を言ったが、頭の中にあるもやもやは晴れない。どこかで見たような顔。私はサークルにもゼミにも入っていないし、講義室ででもすれ違ったのだろうか。

　なんだか胸にすとんと落ちないけれど、「私たち会ったことありますっけ」なんてナンパみたいなことは言えないから、その疑問を押し退けて今度こそオートロックを解除した。

　どうやら男の人もここの住民だったらしく私に続いて中に入ってくる。
階段を上ればついに私の部屋だ。冷えきった足をなんとか動かして階段を上ろうとしたときだった。