素直に【kn】 ページ12
ちょっと、私まで濡れちゃうじゃん。とは、言えなかった。
それなりに･･･少なくとも私よりも運動が出来る筈の彼の息は荒い。きっと走って来たんだ。
やって来るなり私に抱きついてきた彼は私の肩に顔を乗せて黙ったっきり。
――アンタはどうせ私が居なくなってもなんとも思わないんでしょうね！！
そう言ってしまった一昨日を、思い出す。
彼が忙しくてなかなか家に居れず、喧嘩して言い合いになってしまって、ついカッとなって言ってしまった。
その勢いで昨日は仕事の後に帰らずに大先生の家に泊めてもらったんだ。
折角明日休みなのに、無駄になっちゃったななんて思いながら、慰めて貰って泣いてたんだよ。
こんな赤くなっちゃった目、君に見られたくないのに。
『なんで、･･･びしょ濡れなのさ･･･風邪、引くじゃん』
「お前が行き先も言わんで勝手に帰らんから探しとったんやで。そんくらい察せや」
『･･･心無いくせに、ムキにならないでよ』
「アホか。俺は心あるってずっと言うとるやろ」
ああもう、そんな風に言いながら、優しい声で私を泣かせてくる。
心無いくせに。心無いくせに、何時だって君は私の心の一番弱い所を突いてくる。
大先生が気を効かせて･･････というより、玄関先で抱き合われるのが迷惑だったのか。
荷物をさっさと持ってきてくれて、はよ家で風呂入れよって送り出してくれた。
片手に手荷物、片手首を強く握られながら歩く。
手を握ってはくれないのは何で、なんて聞けもしない私は本当に卑怯で馬鹿だと思う。
「あのな、」
彼がそう切り出す。釣られて顔を上げれば、此方を見ない彼の横顔が見えた。
視線だけが此方を向くのは照れか、なんて昔弄ったっけ。
代わりに受けたデコピンのせいで私の額が赤くなって、彼の耳も赤かった。
ぐす、なんて間抜けな鼻を啜る音を出したのは、私か彼か。
「俺、お前が居ないと寂しいねんぞ」
『･･････ぐーぜんだね、私も』
「大先生がおったやんけ」
『大先生には悪いけどコネシマに代えられない』
「お前のが心無いわ」
顔を見合わせずに、あははと笑う。
いつの間にか素直に繋がれていた手はきっと、今の心を表している。
やっぱり、お互い素直にぶっちゃけるぐらいがちょうどいい。
寂しい事も素直に伝えよう、きっとそれが私達の適度な距離感だ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 60人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
