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この非常事態に、先輩はのんきに跳び箱に座ってスマホをいじりだした。時間を確認したらしい。体育館を部活で使う人のあるあるなのかもしれないけど、もし見つけてもらえなかったら、って恐怖でドキドキする。動かない扉を開けようと何度も引いてみる。
『どうしよう、』
カ「無理だよ、鍵かかっちゃったんだって。たぶん」
『…でも、』
カ「そんなに俺といるのがイヤ?」
先輩の言葉が鋭く刺さるように響いた。
たらいに水を張って、そこに墨汁をたらしたみたいに黒いもやが広がっていく。恐る恐る振り向くと、先輩とは一瞬目があっただけで、すぐに逸らされた。
『…そんなこと、』
カ「あの一年と、だったら?」
『…あの一年?』
あの、ってどの?一年、ってほとんど誰も知らない。
困ってしまって、でも誰のことですか、って聞ける雰囲気ではない。先輩はわざとらしくため息を吐いて、なんで今日ここに来たかまだ聞いてない、って小さな声で言った。
『たいしたことでは、なくて、』
この話も、いまの先輩にはできない。結局先輩と話せることなんかなくなって、少しついていた自信がまったくなくなる。わたし、じゃ、ダメかも、やっぱり。
カ「…いま暇だし言ってよ」
『…、』
カ「つーか座れば」
先輩は跳び箱から降りて、畳まれたマットに腰掛けた。隣をパンパン!って叩く音でびっくりして、慌ててそこに座る。隣は顔が見えないから、もしかしたら、さっきより怖くないかも。
カ「…で?なんで来たの」
『…、えっと・・・・その、…ごめんなさい、』
まさか誕生日プレゼント忘れてたから今度一緒に買いにいきませんか、なんて言えない。冗談が言える空気ではなかった。今日の先輩は。
謝るしか思いつかなくて、唇を噛みしめた。
カ「…はー」
また大きくため息をはいた先輩が、頭をがしがしかいて、ぼそぼそ話し始めた。
カ「最近、一年の、…男と、よく一緒にいるだろ」
『…?おとこ、』
カ「そう、…Aはさ、…、そいつと付き合ってんの?」
伺うような柔らかいトーンで聞かれて、ぶわわ、って涙の膜が張る。
『つ、きあってない、ですっ』
たぶんまんずのことだって思って、ちゃんと否定する。先輩がなにを考えてて、どうしたいのか、まったくわからなくて怖くて、不安で、悲しい。
つづく
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社長室(プロフ) - じゅんりさん» お気遣い本当にありがとうございました。更新は未定ですが、眠っている短編からアップしていこうと思っています、その時はよろしくお願いします。 (2020年1月8日 22時) (レス) id: 4147535b1c (このIDを非表示/違反報告)
じゅんり(プロフ) - お気づきになったみたいで良かったです(^^)社長室さんの書く作品大好きなので、また作品上がるのを楽しみにしてます(^^)! (2020年1月7日 10時) (レス) id: a9d9714e3d (このIDを非表示/違反報告)
社長室(プロフ) - じゅんりさん» コメントありがとうございます。インスタには載せておりませんので無断転載になります。じゅんりさんのコメントでアカウントも把握することができました。ありがとうございます。放置ぎみになっていたところにわざわざコメントいただいて感謝です。出来る限り対処します (2020年1月6日 23時) (レス) id: 4147535b1c (このIDを非表示/違反報告)
じゅんり(プロフ) - 社長室さん初コメ失礼します。インスタに、こちらの学パロ載せたりしてませんよね?無断転載されていると思います。アカウント名など、もしお知りになりたい場合はお教えします。私もいち書き手、いちファンとして許せないので不適切アカウントとして報告しておきますね (2020年1月3日 22時) (レス) id: 035108e004 (このIDを非表示/違反報告)
社長室(プロフ) - おかきさん» コメントありがとうございます!終わるとみせかけて終わりません、すみません!よろしければもう少しお付き合いください〜 (2019年5月28日 13時) (レス) id: 37f3407064 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:社長室 | 作成日時:2019年3月25日 23時