懐かしくなって笑えれば ページ10
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──────────
「ありがとうございました」
運転手さんにお礼をしてタクシーを降りる。
お酒で気持ちが少し大きくなって、一未に別れを切り出すことは考えられるのに、ほろ酔いの頭ではなんて言葉で伝えるかは思いつかない。
次会う時までに考えよう。
とりあえず今は、早くお風呂に入ろう。
部屋の鍵を開けて扉を開く。
「えっ?」
今朝家を出る時にはなかった、男物の靴を見て思わず声が出る。
それはまぎれもなく一未のもので、認識した途端に酔いが覚めていく。
「おかえり、遅かったな」
リビングに向かえば案の定そこにいる彼。
「──か、かず…」
嬉しいはずなのに、うまく笑えない。
「来たらまずかったか?」
リビングの入り口に立ち尽くす私に近づいてくる彼に、ううん、と首を横に振るのが精一杯。
さっきから考えていたことが、頭の中で速度を上げてぐるぐる駆け巡る。
「あの…さ、一未、」
別れよう、
覚悟を決める
今までのすべてを終わらせる一言
言ってしまえば、戻れなくなる
「ずっと会えなくて、ごめん」
遮られた私の言葉は呆気なく、覚悟と一緒に行き場を失った。
──────────
勝手に家まで来ておいて早く帰ってこいなんて言えないからおとなしく彼女の帰りを待っていると、ようやく玄関の鍵が開く音がした。
「おかえり、遅かったな」
「──か、かず…」
リビングの扉を開いたまま固まるA。
その反応が予想外で、俺は少し焦ってしまう。
「来たらまずかったか?」
「ううん…あの、さ、一未」
「ずっと会えなくて、ごめん」
何かを言いかけた彼女を遮るように言葉が口を突いて出た。
「仕事中も気付いたらAのことを考えてる。笑っちゃうよ、恋愛なんてどうでもよかったのに」
久しぶりに触れる彼女は、まだ笑わない。
前髪を撫でていた手を背中にまわして抱きしめてもAは黙ったまま。
「A、会いたかった。ずっと。」
「…私も、会いたかったよ」
少しの沈黙のあとそう返したAは、
「会いに来てくれてありがとう」
と続けて、細いその腕を俺の背中に回した。
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瑠璃 - 夢主はなんでそうなったのかわからない。食べきれないので先輩や仲良しの後輩、桔梗達に差し入れする。人気に悩む志摩さんお願いします。 (2020年9月20日 9時) (レス) id: 9070337cc8 (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃 - 志摩さんリクエスト。陣馬の娘、恋人夢主。飽きられないよう努力継続。志摩と付き合ってから益々綺麗になる。努力もあって可愛いさも増す。先輩の夢主に勝てる女性はいないっと言葉の通り、色々な部署で人気になった話し。差し入れや告白がたえない。 (2020年9月20日 9時) (レス) id: 9070337cc8 (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃 - リクエストありがとうございます。志摩さんにやり返されちゃいましたか(笑)されるがまま、夢主に弱い志摩さんを書いてくださりありがとうございます。また、リクエストお願いします。 (2020年9月20日 9時) (レス) id: 9070337cc8 (このIDを非表示/違反報告)
りり(プロフ) - 瑠璃さん» リクエスト、更新が遅くなってしまってすみません。今回も書いていて楽しいリクエスト、ありがとうございました。気に入っていただけると嬉しいです(^ν^) (2020年9月20日 1時) (レス) id: 9d1fcda077 (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃 - ふわふわとした甘さのお話もいいですね。可愛いらしいお話、ありがとうございます。読んでてキュンとしました。更新、楽しみにしています。 (2020年9月15日 7時) (レス) id: 9070337cc8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:りり | 作成日時:2020年9月13日 6時