不安だけどいつか ページ9
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『もしもし一未?今日、夜会えるかな?』
申し訳なさそうに、そして遠慮がちに訊いてくる彼女の声。
目の前には書類の山、その隣には読んでおきたい資料がいくつか。
「ごめんA、今まだ残業してて何時に帰れるか分からない」
『…そっか、わかった!頑張ってね』
──また期待を裏切ってしまった
暫しの沈黙のあと明るくなる声に、そう思わずにはいられない。
Aとの電話を切ったプライベート用の携帯のホーム画面には、いつだか2人で桜を見に行った時に撮った彼女の後ろ姿。
『言ってくれたら可愛い顔したのにー』
『なんだよそれ』
背後からのシャッター音に気付いて、振り向いてわざとらしく文句を言うAはあの時、本当に幸せそうだった。
俺の好きな、あの笑顔で。
その笑顔の理由は自分なんだと思わせてくれる彼女が、心の底から愛おしかった。
もうその顔を、何日見ていないんだろう。
いつ愛想を尽かされても不思議じゃないよな。
俺だって好きで会わないわけじゃない。
会えるものならいつだって会いたい。
だけど仕事も大切で。
4機捜に配属されて所轄にいた頃よりずっと充実している。だからこうして書類仕事も残業して…
「──ま、志摩!」
「…えっ?あ、はい」
「なんだぼーっとして、珍しいな」
陣馬さんの声に気付いて慌てて返事をした。
「考え事していて…すみません」
「いや…お前帰らないのか?伊吹はとっくに出たぞ」
「はっ?…あいつ」
「仕事するのもいいけど、ちゃんと休めよ。その書類急がないから、明後日でいいぞ」
「…ありがとうございます」
キリのいいところで仕事を切り上げて、一旦家に帰る。
シャワーを浴びて横になっても、浮かぶのはAの顔。
夕方、Aの家に行こう。
ずいぶん前にもらったまま使っていない合鍵の存在を思い出す。
帰ってきて俺がいたら驚くかな、喜ぶかな
久しぶりにあの笑顔が見られるなら───
そんなことを考えていると、程なくしてやってきた眠気に誘われて、俺は眠りに落ちていった。
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瑠璃 - 夢主はなんでそうなったのかわからない。食べきれないので先輩や仲良しの後輩、桔梗達に差し入れする。人気に悩む志摩さんお願いします。 (2020年9月20日 9時) (レス) id: 9070337cc8 (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃 - 志摩さんリクエスト。陣馬の娘、恋人夢主。飽きられないよう努力継続。志摩と付き合ってから益々綺麗になる。努力もあって可愛いさも増す。先輩の夢主に勝てる女性はいないっと言葉の通り、色々な部署で人気になった話し。差し入れや告白がたえない。 (2020年9月20日 9時) (レス) id: 9070337cc8 (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃 - リクエストありがとうございます。志摩さんにやり返されちゃいましたか(笑)されるがまま、夢主に弱い志摩さんを書いてくださりありがとうございます。また、リクエストお願いします。 (2020年9月20日 9時) (レス) id: 9070337cc8 (このIDを非表示/違反報告)
りり(プロフ) - 瑠璃さん» リクエスト、更新が遅くなってしまってすみません。今回も書いていて楽しいリクエスト、ありがとうございました。気に入っていただけると嬉しいです(^ν^) (2020年9月20日 1時) (レス) id: 9d1fcda077 (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃 - ふわふわとした甘さのお話もいいですね。可愛いらしいお話、ありがとうございます。読んでてキュンとしました。更新、楽しみにしています。 (2020年9月15日 7時) (レス) id: 9070337cc8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:りり | 作成日時:2020年9月13日 6時