昨日のこと ページ22
.
藍は追いかけてこない。
それでよかった。今、藍の顔を見れる自信がない。
本当に仕事行こうかな。仕事用の服着てないけど。ひとりでいたら色々考えてしまいそう。
最寄駅に着いて、気持ちを落ち着かせようと歩く。
歩みを止めたくない。横断歩道で立ち止まるのも嫌だけど赤信号だから仕方ない。
止まってふと顔を上げると、向こう側に見覚えのある顔がいた。
「…志摩さん?」
信号が変わった瞬間、走り出す。
「志摩さん!志摩さん!」
「わ…っ、Aさん?」
「あの!今ちょっといいですか!」
分駐所で残業していたという志摩さんにタイミングよく出会えた私は、話を聞いてもらうことにした。
「伊吹から、出張に行っていると聞いてました」
「昨日帰ってきたんです。今朝、藍のところに行ったんですけど…あの、藍最近引っ越すとかなんとか言ってませんでしたか?」
「…え、っと、聞いてないですか?何も?」
────────
偶然、署の近くで伊吹の彼女に会った。
何も、聞いていないらしい。何も。
──昨日捕まった、ガマさんのことも。
それどころか、『麦って名前の人知ってます?』
と言っている。
聞けば、伊吹がガマさんが捕まる前に羽野麦に提案した、"3人で暮らす話"を前向きに考えます、という返信をたまたま見てしまったらしい。
俺は、Aさんと分駐所まで戻り、昨日までに起きたことを彼女に説明した。
「伊吹は、ガマさんと羽野麦、どちらのことも本気で心配していたんだと思います」
心変わりなんかじゃなくて。
「…藍らしいですね、でも…もう、そのことはどうでもいいです…それより、ガマさんのこと…それって何かの間違いじゃないんですかっ…?」
Aさんは泣きながら俺に聞く。
「間違いじゃ、ないです」
「…私、藍を置いてきちゃった…バカみたいな勘違いのせいで──っ」
「それは仕方ないですよ、そんな文面見たら、誰でも不安になります。今は早く、あいつのところに戻ってやってください」
「…はいっ」
ありがとうございました、と頭を下げる彼女は涙でボロボロで。
誰かのために、あんなに綺麗な涙が流れるものかと思ってしまった。
.
301人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
チェリー(プロフ) - はじめまして。リクエストしてもいいでしょうか?伊吹が主人公にプロポーズする話をお願いします。 (2020年10月22日 20時) (レス) id: 3bf9690769 (このIDを非表示/違反報告)
ニコ(プロフ) - 初めまして。いつも楽しく読ませてもらっています。質問してもいいでしょうか?死ネタは書くことができるでしょうか? (2020年10月22日 14時) (レス) id: 4a11be0ec9 (このIDを非表示/違反報告)
りり(プロフ) - こなさん» こなさん、リクエストありがとうございました!書くのが遅くなってしまって本当にすみません!楽しんでいただけると幸いです。 (2020年9月25日 15時) (レス) id: 9d1fcda077 (このIDを非表示/違反報告)
こな(プロフ) - リクエストお願いいたします!捜査依頼で彼女が英語を話すはなしを。、 (2020年9月14日 19時) (レス) id: 3a7ce308f1 (このIDを非表示/違反報告)
りり(プロフ) - こなさん» わああ嬉しい( ; ; )ありがとうございます!リクエスト、お待ちしています! (2020年8月24日 7時) (レス) id: 9d1fcda077 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:りり | 作成日時:2020年8月16日 22時