ヒーロー現る ページ14
掴まれた手首が全然ほどけなくて、体が震える。
「ちょっとお兄さん、なーにしてんの?」
背後から聞こえた声に振り返ると、そこにはパーカーにほっそりおしゃれジャージ姿の男の人
「…いっ、ぶきさん!?」
制服を着ていないから一瞬誰だか分からなかった。
伊吹さんは裕史を見つめたまま、私の隣まで来て肩を組む。
「俺の彼女にさわらないでねっ?」
そう言って、呆気に取られている裕史の手を私の手首から、簡単に払い除ける。
…いま、かのじょって言った?
「は?こいつと付き合ってんのかよ?」
裕史に聞かれ、
「え、あの、う…「てかさ、そんなことお前に関係ないだろー」
私の言葉を遮る伊吹さん。
「…これ以上Aちゃんにしつこくしたら、本気で容赦しねーぞ」
一歩近づいて突然表情を変えた伊吹さんに凄まれて、逃げるように、というか言葉通り逃げていった裕史
「大丈夫?手首痛いっしょ?」
組んでいた肩を離して、私を覗き込むように少しかがむ伊吹さん。
「だ、大丈夫です…あの、ありがとうございました」
まだ激しく脈打つ心臓が苦しくて、精一杯絞り出した一言。
「すっげーいいタイミングだった。よかったー、ランニングしてて」
ほぼ毎日この辺走るんだけどさ、あ、てか俺この辺住んでんだよねー、だからAちゃんに会えるんじゃないかと思ってはいたっていうかさー
伊吹さんはひとりで喋り続ける。まだ頭はぼーっとする。
「…ねえ今の奴知り合い?」
「──前、付き合ってたんです、大学の時」
「うわー、未練タラタラな奴?やだねー!でもAちゃんの可愛さには勝てないかー」
「あの、伊吹さん、」
「ん?どした?」
「助けてくださって、本当にありがとうございます」
そこまで言ったら、なぜか涙が出てきた。
これ以上涙が出ないように少し息を止めた瞬間、
「…泣かないでよ」
視界が真っ暗になって、抱きしめられたんだと分かった。背中にまわった伊吹さんの手があったかくて、気持ちが落ち着いていくのを感じる。
「怖かったでしょ?もう大丈夫だからね」
抱きしめられながら、そっと深呼吸をする。伊吹さんから香る甘い匂いにまた安心する。
でもこの状況がだんだん申し訳なくなってきて、
「すみませんでした。彼女だなんて嘘までつかせてしまって…」
身体を離して伊吹さんを見上げる。
「いや全っ然謝んなくていい!」
初めて会った時みたいな笑顔で、そう言われた。
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チェリー(プロフ) - はじめまして。リクエストしてもいいでしょうか?伊吹が主人公にプロポーズする話をお願いします。 (2020年10月22日 20時) (レス) id: 3bf9690769 (このIDを非表示/違反報告)
ニコ(プロフ) - 初めまして。いつも楽しく読ませてもらっています。質問してもいいでしょうか?死ネタは書くことができるでしょうか? (2020年10月22日 14時) (レス) id: 4a11be0ec9 (このIDを非表示/違反報告)
りり(プロフ) - こなさん» こなさん、リクエストありがとうございました!書くのが遅くなってしまって本当にすみません!楽しんでいただけると幸いです。 (2020年9月25日 15時) (レス) id: 9d1fcda077 (このIDを非表示/違反報告)
こな(プロフ) - リクエストお願いいたします!捜査依頼で彼女が英語を話すはなしを。、 (2020年9月14日 19時) (レス) id: 3a7ce308f1 (このIDを非表示/違反報告)
りり(プロフ) - こなさん» わああ嬉しい( ; ; )ありがとうございます!リクエスト、お待ちしています! (2020年8月24日 7時) (レス) id: 9d1fcda077 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:りり | 作成日時:2020年8月16日 22時